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枯葉の髪飾りLⅨ [枯葉の髪飾り 2 創作]

 吉岡佳世の水筒は拙生の予想通り記録係テントの中に残されていたのでありました。拙生は寝不足の目を擦りつつ、いつもより早めに登校して教室に入る前に運動場へ向ったのでありました。晴天で朝日が射しているにも関わらず体育祭から一夜明けた運動場は、薄い靄がかかったように総ての動きあるものから見放された静寂の中でまだ眠っているようでありました。
 テントの端の椅子の背もたれに水筒は掛かっているのでありました。それはすぐに見つけることが出来たのであります。水筒の赤い蓋と赤い肩紐がいかにも自分を見つけてくれるのを待っていたかのように、拙生の目に飛びこんできたのでありました。拙生は水筒を取り上げるとそれを肩に掛けて、安堵の吐息を一つしてにんまりと笑って教室へ向かったのでありました。
 教室に入って来て、拙生の椅子の背もたれに赤い水筒が掛かっているのを目敏く見つけた島田が、自分の席に行く前に拙生のところへやって来て声をかけるのでありました。
「ああ、水筒、もう見つけたと。何処にあったと?」
「思うた通り、テントの中にあった」
 拙生は横に立つ島田を見上げながら云うのでありました。
「そんならよかったね。大して手間もかからんで」
「案外簡単に見つかってよかったばい」
 拙生は島田に笑いかけるのでありました。
「おう、昨日はどがんやったか、吉岡の様子は?」
 島田の横に、登校してきた隅田がやって来て拙生にそう聞くのでありました。
「うん、別に寝こんでもおらんで、普通にしとったぞ、ねえ」
 拙生は同意を求めるように島田に視線を移しながら云うのでありました。島田が一度頷きます。
「今日は学校に来るとか、吉岡は?」
「いや、大事ばとって休むて云いよった。どうせ今日は体育祭の後片づけだけで、授業もなんもなかけんがね」
「ああ、そうや」
 少し遅れて安田が教室に入って来ます。安田も早速拙生の机の傍に来て隅田と同じことを拙生に聞くのでありました。拙生もまた先程隅田に話した同じことを繰り返します。
「この赤か水筒はなんか?」
 拙生の座っている椅子の背もたれに掛けられた水筒を見つけた安田が聞きます。
「ああ、こいは吉岡が昨日学校に置いていった水筒くさ」
「なあんや、昨日バッグと一緒に持って行かんやったとか?」
「後で気づいたとくさ、この水筒のことは」
「あ、ひょっとしたら今日も吉岡の家に行く口実のために、態と昨日持って行かんやったとやなかろうね、井渕は」
 安田が拙生を指さしてニヤニヤと笑うのでありました。
(続)
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