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枯葉の髪飾りⅩⅩⅣ [枯葉の髪飾り 1 創作]

「本当はなんかご挨拶の品ば持ってこんばやったとですが、オイ、いや僕が気の利かんもんけん、どうも済んません」
 拙生がそう云うと彼女のお母さんは顔の前で手をせわしなくひらひらと動かします。
「なあんも、なあんも。高校生がそがん変な気ば遣わんでよかとよ」
 そう云って笑っています。
「高校生のくせしてそがん出来とったら、逆に怖ろしかぞ」
 彼女のお兄さんが続けます。拙生は彼女のお兄さんを見て頭を掻くのでありました。
「はい、挨拶はこんくらいにしてご飯の用意、ご飯の用意」
 彼女のお母さんはそう云ってまた先程と同じ仕草で立ち上がって、台所の方へ小走りしながら云いつのります。「佳世、井渕君にお茶ば入れてあげとって。それから浩輔、料理ば出すとば手伝って」
「慌ただしかねえ、まったく」
 浩輔と呼ばれた彼女のお兄さんは拙生を見ながらそう云って立ち上ります。「足ば崩して、楽にしとってよかばい」
「はい、有難うございます」
 拙生は台所の方へ立ち去る彼女のお兄さんに一礼をするのでありました。
「お父さんは今日は居らっさんとか?」
 拙生は隣に座ってお茶を入れている吉岡佳世に聞きます。
「本当は居らすはずやったとけど、急に仕事の出来て出掛けとらすと。井渕君に会ってみたかて云いよらしたとけどね」
 拙生はそう聞いてなんとはなしに安堵するのでありました。
 卓の上に並べられた料理は実に豪華で昼食とは思えない程でありました。お茶では愛想がないためかファンタグレープで乾杯して食事が始まりました。
「ウチはお客さんが来たらファンタグレープで、いつもはプラッシー飲んでるとよ」
 吉岡佳世がそんなことを乾杯の後で云うのでありました。
「昔はお客さんはバヤリースオレンジで、家族は渡辺のジュースの素で作った薄うか味のオレンジジュースやったとぞ」
 彼女のお兄さんが紹介します。「時々三矢サイダーの出て来るぎんた嬉しかったぞ」
「あたし達ん子供の頃はお茶しかなかったけどね」
 彼女のお母さんが話に乗ってきます。「井渕君、ファンタグレープ好き?」
「はい。チェリオより好いとるです」
「チェリオは量の少し多くて安かけどね」
 彼女のお兄さんが云います。「オイ達の高校時代は、大体がチェリオば学校帰りに飲んどったぞ」
「今でんチェリオば飲むですよ、なんかて云うと」
 拙生が云います。「クラブ活動の差し入れは、チェリオかミリンダと、一休の回転饅頭て決まっとるですよ。今は受験けんオイ、いや僕はクラブはしよらんですばってん」
(続)
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