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枯葉の髪飾りⅩⅩⅤ [枯葉の髪飾り 1 創作]

「ま、オイは大学生になったらビールになったばってんね」
 彼女のお兄さんが云います。
「今年成人したからて云うて、大人ぶって」
 吉岡佳世がからかうような口調で云います。
「やぐらし。寮の先輩とかに飲ませられるけん否応なしにビールになるとくさ」
「大学は何処にあるとですか?」
 拙生が聞きます。
「京都」
「へえ、京都ですか。遠かですね。今新学期じゃなかとですか?」
「いや、八月九月が夏休みで後期は十月から始まると」
「夏休み、長かですね。羨ましかねえ」
「井渕君はどこの大学ば受けると?」
 彼女のお母さんが聞きます。
「東京の大学よねえ」
 拙生の代わりに吉岡佳世が云います。
「なんや、京都よりももっと遠かやっか」
 彼女のお兄さんがそう云って笑います。「東京のなんて云う大学か?」
「まあ、まだはっきり決めとらんとです実は。オイ、いや僕の学力に見合ったところて云うか。ま、適当に見繕って受験して、入れてくれるところに行こうかと」
「佳世も大学受験するとやろう? この前そがんこと云いよったけど」
 彼女のお母さんが吉岡佳世に聞きます。
「そう。来年やなかけどね。体もちゃんとなって、高校卒業する目途が立って、体力ついて、きっちり受験勉強してからね」
「何時になる予定か、それは?」
 彼女のお兄さんが聞きます。
「再来年以降」
「まあ、何時になってもよかけん、頑張んなさい」
 彼女のお母さんが云います。「この前、確か井渕君と海に行った日やったか、夜、大学受験しようかなて佳世が云いだしてさ」
 彼女のお母さんは今度は拙生に向かってそう言葉を重ねます。「冬に手術やし、来年の卒業も大丈夫かどうか判らんばってん、それでも大学受験する積もりでいてよかやろうかて、あたしに突然聞いてきてね、この子は」
「井渕君に影響されたとやろう、それは」
 彼女のお兄さんが云います。吉岡佳世はにこにこと笑って拙生を見ています。
「お父さんにそのことば話したら、おう、それはよか、佳世が目標ば持って手術に臨むなら、きっと手術も成功するやろうて。お父さんも喜んどらしたと」
 彼女のお母さんは、目は吉岡佳世の方に向けてそう続けるのでありました。
(続)
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