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あなたのとりこ 681 [あなたのとりこ 23 創作]

 頑治さんはややぞんざいな口調で、この前以来の自説を繰り返すのでありました。
「あたしと袁満君を呼び出した割には、大した話もなかったけど、まあ確かに、唐目君が奇妙がるように、そうならどうして態々名指しで呼んだのかしら?」
 那間裕子女史が首を傾げるのでありました。
「ひょっとしたら今後何か、アクションがあるかも知れないぜ」
 均目さんが意味あり気に云うのでありました。「一応ここで顔繋ぎをしておいて、組合の立ち上げから春闘に於ける助力なんかを恩に着せて、例えば近々あるらしい参議院議員の選挙であの党の候補の選挙活動を手伝えとか、そんな要求をして来る可能性もある」
 またそんな話しかと、頑治さんは些かげんなりするのでありました。
「そんなのは困るわよ、あたしは基本的に国政選挙なんて無関心な方なんだから」
「国政選挙?」
 均目さんが那間裕子女史を横目で見るのでありました。「国政選挙どころか、那間さんは地方選挙とか、大凡政治向きの事には何の興味もないくせに」
「それはそうね」
 那間裕子女史はあっけらかんと笑うのでありました。「確かに生臭い政治向きの話しなんかに、あたしは何の興味もないわ。そんなに暇でもないし」
「暇なら政治向きの話しをすると云うのも、どこか了見違いのような気もするけど」
 均目さんが皮肉っぽく云うのでありました。
「兎に角、選挙の手伝いなんて願い下げだわ」
「俺も困るよ。第一あの政党を普段から特に支持している訳でもないし、そんな政党の候補者の選挙応援する義理なんかは何もないもの」
 袁満さんも首を横に振りながら云うのでありました。
「でも義理と情に絡めて、頼むよと横瀬さんから電話がくるかも知れないですよ」
「そんな電話がきてもきっぱり断るよ」
 袁満さんは断言するのでありましたが、しかし気の優しい、相手の押しの強さに弱い袁満さんなら、横瀬氏に頼まれたら渋々でも、依頼を受けるのではないかと頑治さんは思うのでありました。そこが袁満さんの良いところでもあるのでありましょうから。
 この一連の会話は昼休みに四人で一緒に摂った食事の後に、倉庫の中に何となく集まって行われたのでありましたが、そろそろ午後の始業時間になるので、この辺りで誰云うともなく切り上げとなるのでありました。まあ暇潰しの雑談の類であります。
 後で纏めて棄てておきますとよ云う頑治さんの言に皆が甘えて、それぞれが飲んだコーヒーの空き缶が荷造り台の上に残されるのでありました。頑治さんはその儘倉庫に残って三階の事務所に戻っていく三人を駐車場から見送るのでありました。

 頑治さんは会社を辞す前に倉庫の整理をしようと思っているのでありました。自分が辞めた後に、ひょっとしたら新たに雇われた人間が仕事を受け継ぐかも知れないから、その後釜がまごつかないで済むようにしておかなければと考えた故であります。
(続)
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