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あなたのとりこ 644 [あなたのとりこ 22 創作]

「でもそんな急場凌ぎみたいな事にずっと関わっていくのは、ちょっとね。将来像がちっとも描けないものね、それじゃあ」
「那間さんはこれから先、雑誌編集者として遣っていきたいと云う志望があるからね」
 袁満さんは暗い顔で納得の頷きを返すのでありました。
「別に絶対雑誌の編集者と云うのではないけど、まあ、本とか雑誌とか何でも良いけど、兎に角編集者として遣っていきたいと云うのはあるけどね」
「均目君は大丈夫なのかな、闘争が長引いても?」
「まあ、大丈夫と云う事ではないけど、でもまあ、最後まで付き合いますよ」
 均目さんは妙に気楽な調子で返答するのでありました。均目さんは片久那制作部長が始めた仕事に呼ばれるのを待っている身でありますから、再就職にあくせくする必要はないのでありましょう。しかし呼ばれたらすぐに行かなければならないでありましょうから、そんなに悠長に贈答社の労働争議に付き合っている訳にもいかないでありましょう。
「唐目君はどうなのかな?」
 袁満さんは頑治さんの顔を見るのでありました。
「まあ、当面大丈夫ではありますが。・・・」
「でも唐目君にしたって、そんなに何時迄も関ずらわっている訳にもいかないわよね。彼女さんとの将来もある事だし」
 那間裕子女史がここでそう云って頑治さんの反応を横目で窺うのでありました。頑治さんは無言で、努めて無表情に那間裕子女史の視線を遣り過ごすのでありました。
「甲斐さんはどうだろう?」
 袁満さんは遠慮がちに甲斐計子女史に視線を向けるのでありました。
「あたしははっきり云って迷惑よ、そんなものに関わるのは」
 甲斐計子女史は少し怒ったような云い草をするのでありました。「そんなものに関わるくらいなら、あたしは組合を辞めさせてもらうわ」
 この女史の発言に困じて全く以って手古摺るような表情をして、袁満さんは甲斐計子女史からおどおどと視線を外すのでありました。甲斐計子女史の感情の嵩じた決意表明に対して、気の優しい袁満さんとしてはおいそれと逆らえないでありましょう。まあ、頑治さんとしても袁満さん同様にこれはなかなか大儀なところではありますか。
「唐目君はどう考えているの?」
 那間裕子女史が訊くのでありました。
「袁満さんが幾ら時間が掛かってでも闘争すると云うのなら、付き合う心算です」
「それって、彼女さんの方は大丈夫なの?」
「それは余計なお世話ですよ」
 頑治さんは多少の、先輩後輩の礼儀と云う上での遠慮と忌憚を込めながらも、不快を明瞭に滲ませながらきっぱり云うのでありました。
 那間裕子女史はそのつれなさに鼻白んで、如何にも不愉快そうに目線を外すのでありました。頑治さんがあくまで下手に出る辺りが逆に気に入らないのかも知れません。
(続)
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