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あなたのとりこ 457 [あなたのとりこ 16 創作]

 片久那制作部長がこういう云い方をするのは、その話しは知ってはいたけど、自分は加担する心算は毛頭無かったと云う事を言外に明示していると云う事でありますか。
「これに限らず土師尾常務の遣り口と云うのは、何時も薄汚いよなあ」
 袁満さんが顔を顰めるのでありました。
「均目君が今云ったけど、社長も結託していると云うのはその通りだ」
 片久那制作部長は話しを続けるのでありました。「寧ろ社長の方が一枚上手で、そう云う社長の意を受けて、土師尾常務がその実現にせっせと動いていると云って良いだろう」
「と云う事はつまり、社長が出雲君の退職金を払わないで済むように処置しろと、土師尾常務に命じたと云う事ですか?」
 袁満さんは片久那制作部長を凝視するのでありました。
「はっきり命じたと云うんじゃない。どうせなら払わないで済ませた方が会社としては助かるなあとか、そう云う仄めかしをして、それとなく仕向ける遣り口だな」
「土師尾常務は傀儡として忠実に無邪気に、張り切って実行しようとする訳ですね」
「その類の取るに足らない下らない企てに関しては、不思議な事に土師尾常務と社長の頭の中は、何時も見事にシンクロするからなあ」
 片久那制作部長は憫笑するのでありました。
「息もピッタリ、二人はツーカーの仲、と云う事ですね」
 袁満さんも皮肉を込めた笑いをするのでありました。
「品性下劣な同士はオツムの構造もピッタリ同じなのね。馬鹿じゃないの」
 那間裕子女史も罵倒するのせありました。「まさか片久那さんもグルじゃ?」
「そう云う何の得にもならない策術は、流儀として俺は好まんよ」
 那間裕子女史のどこか揶揄を滲ませた云い草を、片久那制作部長は軽めに一蹴するのでありました。社長と土師尾常務の計略に対して理知と倫理と合理の側にあらんとする自分は、全く以って無関係であると、これを以てはっきり表明した事になりますか。
 まあ確かに、片久那制作部長はなかなか食えない人ではありますが、同等に、かなり気位の高い人でもありますから、誰かに見られて後ろ暗くて見栄のよろしくない企みは忌み嫌って、自ら進んで加担はしないでありましょう。役員の中で一番、社員の信用をかち取っているのは自分だと云う自覚もあるでありましょうし、その評判に対する未練もまあまああるでありましょうし。まあ、事情に依っては違う場合もあるかも知れませんが、

 事務所の扉が開く音がするのでありました。営業回りしていた日比課長が帰社したのであろうと、頑治さんに限らず大方はそう判ったでありましょうか。
 少しして日比課長は制作部スペースの方に来て、マップケース越しに顔を出すのでありました。皆が制作部の方に集まっている気配を感じて覗きに来たのでありましょう。
「ああ、日比さん」
 袁満さんが声をかけるのでありました。それに励まされたように日比課長は出雲さんの横に進んで、制作部スペースに出来ている人の輪の中に加わるのでありました。
(続)
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