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あなたのとりこ 408 [あなたのとりこ 14 創作]

「唐目君は彼女が故郷から出て来るとか云っていたよなあ、ゴールデンウィークに」
 均目さんが自分と那間裕子女史の事から話題を逸らそうとしてか、フォークに載せたライスを口に運びながらながらそう訊くのでありました。
「うん。仕事絡みでね。もう既にこっちに来ているけど」
「彼女は何の仕事をしているんだっけ?」
「博物館の学芸員だよ」
「その、仕事絡み、と云うのは何だい?」
 再び自分と那間裕子女史の事にこの場での話しを戻らせないようにするためか、均目さんは頑治さんへの質問を畳みかけるのでありました。
「今度大学の考古学研究室と組んで、故郷にある弥生遺跡の大掛かりな発掘調査をするんで、その打ち合わせとか関係省庁への挨拶とかで出て来ているんだよ」
「ふうん。でもゴールデンウィークは大学も官庁も休みだろう?」
「仕事は明日までで、後はプライベートで五日迄こっちに居る訳だよ」
「ああ成程ね。明後日からの三日間は唐目君と二人でイチャイチャして過ごす訳ね」
 均目さんは目元に笑いを溜めて、からかうような口調で云うのでありました。そうだともそうじゃないとも返事するのが何となく面倒だったから、頑治さんは首を縦横何方にも動かさないで、均目さんから目を逸らしながら曖昧に笑うのみでありました。まあ実際、イチャイチャするのはほぼ百パーセント間違いないのではありますがけれど。
 それはさて置き、実のところ均目さんと那間裕子女史の仲てえものは、一体どのような感じなのでありましょう。随分前からかなり親密な恋仲のようでもあり、単なる会社の同僚で気の合う酒飲み友達と云う風でもあり、俄かには判じ難いところであります。頑治さんとしても二人への礼儀と、結局自分には無関係な事柄でしかないと云う無精から、これ迄も敢えてそこを均目さんに煩く問うたり詮索したりはしなかったのでありました。
 ここでも頑治さんは夕美さんとの今夕の逢瀬もあるから、均目さんと那間裕子女史の仲がどのようなものなのであろうかと云う究明は、まあ云ってみれば無関心且つ上の空状態に違いないのでありまして、会話が込み入って一種の退きづらい停滞が生じる前にそそくさと切り上げる心算なのでありました。頑治さんはオムライスの最後の一口を口中に放り込むと、未だ頬を咀嚼に動かしている最中ではあるけれど、スプーンを皿に置いてテーブルの上の紙ナプキンを取って口の周りをつるっと一拭いするのでありました。

 翌五月二日は、翌々日からの連休を控えた出社日でありましたから頑治さんは平常通り会社に向かうのでありました。何時もは殆ど毎日と云って良い程得意先直行の土師尾常務が珍しく朝から既に自席に座っていて、何やら書類に目を通しているのを目撃して全く意外に思うのでありましたが、そう云えばこの日は土師尾常務は指導と視察を兼ねて出雲さんと一緒に、水戸に特注営業に行く予定だったと云う事に思い当たるのでありました。
 しかし一方の出雲さんの姿は未だ見えないのでありました。土師尾常務の意気込みとは逆に、出雲さんとしては大いに気が重いと云う事なのでありましょうかな。
(続)
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