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あなたのとりこ 406 [あなたのとりこ 14 創作]

 全体行進が始まってそれを免除されている事に多少の後ろめたさを覚えるものだから、頑治さんと均目さんは街区一区画分くらいを、東京駅迄の全路程に参加する予定の袁満さんと那間裕子女史、それに出雲さんと一緒に付き合い歩きするのでありました。
「じゃあ、申し訳無いけど唐目君と俺はこの辺でばっくれる事にするよ」
 均目さんがそう云って全路程参加組の三人に片手を挙げるのでありました。
「ああ判った。態々代々木公園迄出て来て貰って有難う」
 袁満さんが慎に人の好い礼辞を述べるのでありました。
「折角だから東京駅まで付き合えば良いのに」
 那間裕子女史がこれで放免となる頑治さんと均目さんに対して、恨みがましさの大いに籠った云い草をして見せるのでありました。
「そうしたいのは山々ではあるけど、前に云っていたように今日は随分以前から予定していた、どうしても外せない用があるから、これで勘弁してください」
 均目さんが那間裕子女史に向かって合掌するのでありました。何時もと違ってここで語尾を敬語にしたのは、申し訳無い心情の表れと云うところでありますか。
「唐目君は?」
「ええ、済みません」
 頑治さんは少し深めにお辞儀して見せるのでありました。
 青山通りに差し掛かった行列から態とはぐれた頑治さんと均目さんは、原宿駅の方に向かって元来た道を戻るのでありました。
「唐目君はこの後すぐに用があるんだっけ?」
 均目さんが原宿駅が見えた辺りで横を歩く頑治さんに訊くのでありました。
「いや、実はすぐにと云うのではなくて、用と云うのは夕方からなんだけどね」
 その日夕美さんは仕事で朝から大学とか文部省とかに行く予定でありました。依って、それが夕方の五時には終わる筈だから、その頃に大学近くの喫茶店のレモンで待ち合わせてどこかで一緒に夕食を、と云う段取りなのでありました。
「あの三人には云っていないけど、実は俺の用と云うのも夕方からなんだ」
 均目さんはそう云ってチョロっと舌を出して見せるのでありました。「じゃあ、新宿にでも出て、昼にはちょっと早いけど何処かで飯でも食うか」
「ああ良いよ」
 均目さんが原宿駅の近くではなく、新宿にでも出て、と云うのは普段から代々木や原宿辺りには生活圏として殆ど縁が無い故でありましょう。まあ、頑治さんもこちらの方面には、偶に渋谷迄行く事はあっても、何故か殆ど足を止めた事はないのでありました。

 別にこれと云って行きたい店は無かったから、頑治さんと均目さんは靖国通り沿いの何時も行く洋風居酒屋近くの、雑居ビルの地下一階にある洋食屋に入るのでありました。そこは五人掛けのカウンター席と椅子席が三つと云う小振りの、前に一度酒の前の腹拵えと云う心算で、那間裕子女史と均目さんと三人で入った事のある店でありましたか。
(続)
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