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あなたのとりこ 355 [あなたのとりこ 12 創作]

「それに横瀬さんより来見尾さんの方には、自分も中小企業の社員なんだから、あれこれ具体的なアドバイスがあるかも知れないか」
 均目さんが云うのでありましたが、頑治さんはそれを聞いて、頑治さんの話しの進み方よりも、横瀬氏と来見尾氏ではどちらが相談に適しているかと云うくだりで、均目さんの思考が停滞していたような風情であるのに少々苛々を感じるのでありました。
「横瀬さんと来見尾さんではどちらのアドバイスが有効か、とか云う問題はここではもう後々の話として脇に置いて、組合が出雲さんの窮地に誠実に寄り添っていると云う態度を明確にすれば、出雲さんもそんな滅多なことはしないだろうし」
 頑治さんはもう一度、均目さんが停滞していたところよりも先に進んだ辺りの話を、謂いとして繰り返して見せるのでありました。
「出雲君の件は早急に場を作って皆に俺から提起して見るよ」
 その頑治さんの苛々を察して、心配しなくても自分はそんな盆暗な会話し相手ではないと云うところを見せるために、均目さんは素早い具体的な実行を約すのでありました。
「それじゃあ、頼むよ」
「判った。今日中に皆に伝達する」
 頑治さんとしては均目さんが、ここでの会話の遣り取り上の経緯から、すぐに行動を起こそうとしてくれた事に、棚から牡丹餅と云った好都合を得るのでありました。一般的に云い出した者が先ず行動すると云う原則があるとすれば、頑治さんが皆に集合を掛けて問題提起すると云う役目を負うのが順当なところであったでありましょうし。

 次の日の終業時間後に早速組合員は全員が神保町駅近くの、そろそろ馴染みになった居酒屋に参集するのでありました。組合の会議と云う形式を取るより食事会とか飲み会の体裁の方が、格式張らない話しが出来るだろうとの均目さんの配慮からでありました。
「今日集まって貰ったのは出雲君の事について話すためなんだけど、・・・」
 くだけた会合であるからビールが全員のコップに満たされた後、ここでは委員長の袁満さんではなく、この会合を提起した均目さんが先ず話しを切出すのでありました。出雲さんは前以って話題は自分の新しい仕事の件であると聞いてはいたものの、自分の名前が均目さんの口から出た時に眉尻をピクンと微動させて緊張を見せるのでありました。
「未だそんなに実働していないけど、実際やってみて感触はどうなの?」
 那間裕子女史がビールのコップを口元に近付けながら訊くのでありました。
「まあ、そうですねえ、何と云うのか、・・・」
 出雲さんは曖昧に応えて、その先を云い渋るのでありました。
「どのくらいの会社を回れるのかな、一日で?」
「そうですねえ、多い時で十社くらいかな。何処かで少しでもこちらの話を聞いて貰えるなら、そこで時間を取るから勿論それより少なくなりますけどね」
「まあ、午前遅くに向こう着いて夕方四時頃に会社に戻らなければならないとなると、そんなところになるだろうなあ、どうしても」
(続)
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