SSブログ

あなたのとりこ 356 [あなたのとりこ 12 創作]

 袁満さんが時間と実働の兼ね合いをざっと勘案するのでありました。
「そう聞くと、全く非効率と云う感じだなあ」
 均目さんが呆れたようなもの云いをするのでありました。
「車が使えたなら、もう少し時間が有効に使えるかも知れませんけど」
 これは出雲さんの実感でありましょう。
「いや、そう云う問題じゃなくて根本的なところで、仕事として成立しているか、と云う疑問が当初から俺にはあるんだけどねえ」
 均目さんが首を傾げるのでありました。「そう思わないか、唐目君は?」
 急に自分に疑問を振られて頑治さんは少しどぎまぎするのでありました。
「車が有るか無いかに関わらず遠距離にある街に日帰りすると云うのが、先ずは非効率の元凶かな。全くの新規開拓の訪問販売的な仕事と云う点は、出雲さんにはきついかも知れないけど、ざらにある仕事と云えばざらにある仕事と云えなくもないかな」
 これは冷たい云い草と思われるかなと頑治さんは危惧するのでありました。「まあ、出雲さんにはあんまり向かない仕事のような気は、大いにしているけど」
「前に出雲君が出張営業で使っていた車は、一月中にさっさと、もう使う事も無いだろうからって売り払って仕舞ったから、今更どう仕様も無いけどね。」
 袁満さんが首を横にゆっくり振りながら云うのでありました。
「でもさっき、車が使えたなら、とか云いましたけど、均目さんが云うように、効率の問題以前に、基本的なところで俺が今やっている、と云うのか、やらされている仕事が、抑々仕事として成立しているかどうか、と云う疑問は実感として俺もありますよ」
 出雲さんの疑問と云うのか、この心情吐露はなかなかに重いと頑治さんは思うのでありました。そう云う嫌気が根っ子にあるのなら、それはもうこの仕事に意欲的には取り組めないでありましょう。出雲さんの資質としての向き不向きの問題も含めて。
「抑々、どうして出雲君は今迄の出張営業を外れる事になったのかしら?」
 新米組合員の甲斐計子女史が訊ねるのでありました。甲斐計子女史は組合が、或いは会社が抱える様々な懸案に対して、自ら積極的に発言をする事はこれ迄には殆ど無いのでありました。訊かれれば曖昧な当り障りのない意見をものすのが精々でありましたか。
「今迄の出張営業に、この先成長が見込めないからだろう」
 出雲さんの代わりに袁満さんが応えるのでありました。
「それはお正月に開いた全体会議の時に聞いた事だけど、でも、袁満君じゃなくて出雲君だった訳が、その時からあたしには良く判らなかったのよ」
「今迄の出張営業は俺の方が出雲君よりやっている年季もずっと長いし、あれこれ仕事の要領に少しくらいは、出雲君と比較して詳しいだろうと云う判断からじゃないの」
「まあ、それが妥当な解釈だけど、でも、出張営業の年季が長いから袁満君を残すと云う理由は、何となく腑に落ちない気がしたのよ。歳も上で色々営業経験もある袁満君の方を新しい営業に回しても、それはそれで理屈としては成立するんじゃないかしら」
「まあ、俺の判断じゃなくて、多分土師尾常務の考えだろうからねえ、それは」
(続)
nice!(16)  コメント(0) 

nice! 16

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:[必須]
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。