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あなたのとりこ 348 [あなたのとりこ 12 創作]

 頑治さんが取り成すように云うのでありました。
「まあその内、土師尾常務の就業態度とかも、この儘じゃ従業員の士気に関わるからと、組合として問題にすることは可能だろうね。でもそれには、予め片久那制作部長を味方にして置く必要があるし、場合に依っては社長もこちらの方に引き入れておく必要もある。土師尾常務を孤立無援にしないと、あの人は自分をなかなか改めないよ」
 均目さんもどちらかと云うと組合としての今後の対処を語ると云うよりは、多分当座の那間裕子女史の心情に配慮する方に力点を置いてそう語るのでありました。
「でも片久那さんは自分の盾として土師尾さんを利用しようと云う魂胆だから、寧ろ皆の怨嗟の的になっていてくれる状態を維持する方が、あれこれ按配が良いと考えているんじゃないかしら。だとしたらあたし達の土師尾さんに対する不満に、或る程度調子良く同調しながら、でも適当にあしらって、結局何もしないなんじゃないかしらね」
「確かにそれはあるかもね」
 均目さんが湯呑を口元から離して頷くのでありました。「それに社長もこちら側の味方に付けるとなると、これも何か気が滅入る程にしんどそうだしなあ」
「基本的に社長は土師尾常務を信用しているんだろう?」
 頑治さんが均目さんが手に持つ湯呑を見ながら訊くのでありました。
「信用しているかどうかは判らないけど、片久那制作部長よりは御しやすいと考えているんだろうな。片久那制作部長は社長にとってなかなか煙ったい存在だし」
「だったら社長は結局、土師尾常務を擁護する方に回るだろうなあ」
「社長としては、まあどのくらい役に立つかは知れないけど、でも色々煩い事を云う片久那制作部長に対する盾として、土師尾常務を遣おうと云う肚もあるだろうし」
「土師尾常務は、盾たる存在としては多方面から重宝がられていると云う訳だ」
「ま、もう一度云うけど、どのくらいの強度のある盾かは大いに疑問だけどね」
「三国一の盾男、と云ったところだ」
「ああ、伊達男の駄洒落ね」
 頑治さんと均目さんはそう掛け合いしながら笑うのでありました。
「二人共、本気で土師尾さんを許せないって思っているの?」
 那間裕子女史が頑治さんと均目さんの不謹慎を詰るように云うのでありました。二人は居住まいを正して、苦笑って那間裕子女史の顔から視線を外すのでありました。
「まあ、この儘の態度で土師尾常務がこれから先ずうっと遣って行ける筈はないさ。当人自ら業績不振だと事ある毎に大声で喚き散らしているんだから、それを打開するために先ずは隗より始めてもらわないとね。自ら範を示す事が、この度常務取締役として優遇を得た者の義務なんだし、それが今からでも遅くない社員の尊敬と心服をかち取る道だし」
「土師尾さんがそんな殊勝な心掛けの人なら、あたしはこんなにあの人をボロクソになんか云ったりしないわ。それとは真反対の人だから苛付いているのよ」
 那間裕子女史が均目さんのどこか公式論のような冗談のような、あんまり本気で怒っていないようなその口振りに、多少敵意を込めた視線を投げるのでありました。
(続)
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