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あなたのとりこ 155 [あなたのとりこ 6 創作]

 それがここに来て怒りに任せて急に会社と対峙するような術等、従業員の誰もが持ち合わせている筈が無いのであります。精々不満表明するのが関の山でありましょう。それも個々でやるには荷が重いから皆で肩を寄せ合って声を併せて、と云う具合に。
「話しが壁にぶつかったようだし、今日はここまでとしますか」
 均目さんが主に山尾主任に向かって提案するのでありました。「ボーナス支給無しなら当然として、額が二か月を切っても取り敢えず抗議のために土師尾営業部長を取り囲む、と云うところ迄は何となく決まったようだし」
「ボーナス支給日まで後三日しかないのに、そんな大筋だけが決まっても具体的な抗議の仕方が何も決まらないと云うので大丈夫かしらね」
 那間裕子女史が懐疑的な事をものすのでありました。
「今日家に帰ってから少しクールに、夫々が策を考えて後日持ち寄ると云うところ迄しか今日はもう、話しが前に進まないでしょう。ここであれこれ話すにはこの後の時間がかかり過ぎると思うし、それじゃこの店も迷惑だろうし、それに腹も減ったし」
 均目さんはそう云って自分の腹を擦って見せるのでありました。
「支給日迄の三日間は会合を重ねないといけないと思うけど、袁満君は明日と明後日は出張に行っていた分の代休を取るとか云っていたんだよね?」
 山尾主任が袁満さんの方を見るのでありました。そう云う口ぶりから察すると、山尾主任もここ迄で今日はお開きとするのに反対と云う事ではなさそうであります。
「そうですね。若し何なら俺抜きで今後の話しを進めて貰って構わないですよ。ボーナス支給日当日は、俺は決まった事に従いますから」
「そんな訳にはいかないわよ」
 那間裕子女史が袁満さんのこの、一種横着にも聞こえる発言を咎めるような目付きをするのでありました。「俺はもう知らないから後はよろしくって云っているのと同じじゃないの、そう云う事を云うのは。それはちょっと無責任だと思わない?」
「ああいや、俺はそんな心算で云ったんじゃないのですけど」
 袁満さんはたじろいで慌てて両手を横にせわしなく振るのでありました。
「袁満君、代休は後にずらせないかな?」
 山尾主任がそう云うと那間裕子女史も均目さんも、それから頑治さんも一斉に袁満さんの顔に視線を釘付けるのでありました。
「そう云う事なら、明日も明後日もちょっと昼間に外せない用があるから、若し話し合いがあるようなら、夕方その時間に顔を出しますよ」
 袁満さんはおどおどと譲歩するのでありました。その様子が、何となく気の毒なように頑治さんには見えるのでありました。
「じゃあ、申し訳無いけどそうしてくれるか」
 山尾主任が頷くのでありました。袁満さんは大いに不満がありそうな面持ちをして、山尾主任の方に目を向けずに俯きがちに頷き返すのでありました。
「明日また仕事が終わったらこの喫茶店に集まると云う事で良いかな?」
(続)
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