お前の番だ! 570 [お前の番だ! 19 創作]
「ところで式は来年の何時頃なんですか?」
香乃子ちゃんがあゆみに訊くのでありました。香乃子ちゃんは良平と結婚する前は時々、まあ、良平との逢瀬が目的ではあったのでありましょうが鳥枝建設の愛好会だけではなく総本部へも稽古に来ていて、その頃はまるであゆみの妹分のようでありましたか。
「一月の寒稽古が終わった後に予定しているの」
「新婚旅行は何方に行くんですか?」
「実は未だ決めていないの。寒稽古が終われば年初の忙しさは一段落つくけど、それでもそんなに長く稽古を休むわけもいかないから、近場に二三泊、なんて事になりそうだわ」
「海外旅行じゃないんですか。ハワイとか?」
「無理々々。そんな時間もお金もないわよ」
ハワイと聞いて万太郎はふと興堂範士の事を思い出すのでありました。興堂範士は珍しくお伴もなくハワイへ出張指導に行った時に亡くなったのでありました。
「ハワイと聞くと、まあ、何となく忌憚があるかなあ」
良平が云うのでありました。そんな事云うところを見ると、どうやら良平もハワイと聞いて興堂範士の事を思い浮かべたのでありましょう。
「香乃子ちゃん達は何処に行ったんだっけ、新婚旅行?」
あゆみが香乃子ちゃんに訊くのでありました。
「バリ島です。インドネシアの。後、シンガポールも」
「ああそうだったなあ。そう聞いた時、豪勢にそんな処に行くお金を良さんは良く持っていたなあと僕は感心したのを覚えていますよ」
万太郎はそう云ってから良平に笑みを向けるのでありました。
「勿論そんな金はなかったから、香乃子の貯金と結婚式の祝い金頼みだったよ」
「ああ成程。祝い金、と云う手があるか」
万太郎がそう云いながら納得気に頷くと横のあゆみが万太郎を見るのでありました。
「でも、海外旅行に行くだけの時間なんか取れないわよ、屹度」
「ああそうですね。なるべく稽古に穴をあけるのは避けたいですよね」
万太郎は良平同様にあゆみにも納得気な頷きを返すのでありました。
「万さんは、今でもあゆみさんと話す時には敬語かい?」
徐に良平が話しの舳先を曲げるのでありました。
「ああ、そうですね。この方が落ち着きが良いと云うのか、何と云うのか」
「この先一生、そんな按配で行くのかい?」
「それはまあ、判りませんが」
「そろそろ敬語抜きにならない、なんて、あたしも云っているんだけどね」
あゆみがまた横の万太郎の顔を見るのでありました。
「万さんの実家がある熊本は、亭主関白の土地柄だろう?」
「いや、最近はそうでもないようですよ。ウチの家も母親の方が親父よりも偉そうにしていますし、兄貴も姉貴に子供の頃から万事につけ遣りこめられていましたから」
(続)
香乃子ちゃんがあゆみに訊くのでありました。香乃子ちゃんは良平と結婚する前は時々、まあ、良平との逢瀬が目的ではあったのでありましょうが鳥枝建設の愛好会だけではなく総本部へも稽古に来ていて、その頃はまるであゆみの妹分のようでありましたか。
「一月の寒稽古が終わった後に予定しているの」
「新婚旅行は何方に行くんですか?」
「実は未だ決めていないの。寒稽古が終われば年初の忙しさは一段落つくけど、それでもそんなに長く稽古を休むわけもいかないから、近場に二三泊、なんて事になりそうだわ」
「海外旅行じゃないんですか。ハワイとか?」
「無理々々。そんな時間もお金もないわよ」
ハワイと聞いて万太郎はふと興堂範士の事を思い出すのでありました。興堂範士は珍しくお伴もなくハワイへ出張指導に行った時に亡くなったのでありました。
「ハワイと聞くと、まあ、何となく忌憚があるかなあ」
良平が云うのでありました。そんな事云うところを見ると、どうやら良平もハワイと聞いて興堂範士の事を思い浮かべたのでありましょう。
「香乃子ちゃん達は何処に行ったんだっけ、新婚旅行?」
あゆみが香乃子ちゃんに訊くのでありました。
「バリ島です。インドネシアの。後、シンガポールも」
「ああそうだったなあ。そう聞いた時、豪勢にそんな処に行くお金を良さんは良く持っていたなあと僕は感心したのを覚えていますよ」
万太郎はそう云ってから良平に笑みを向けるのでありました。
「勿論そんな金はなかったから、香乃子の貯金と結婚式の祝い金頼みだったよ」
「ああ成程。祝い金、と云う手があるか」
万太郎がそう云いながら納得気に頷くと横のあゆみが万太郎を見るのでありました。
「でも、海外旅行に行くだけの時間なんか取れないわよ、屹度」
「ああそうですね。なるべく稽古に穴をあけるのは避けたいですよね」
万太郎は良平同様にあゆみにも納得気な頷きを返すのでありました。
「万さんは、今でもあゆみさんと話す時には敬語かい?」
徐に良平が話しの舳先を曲げるのでありました。
「ああ、そうですね。この方が落ち着きが良いと云うのか、何と云うのか」
「この先一生、そんな按配で行くのかい?」
「それはまあ、判りませんが」
「そろそろ敬語抜きにならない、なんて、あたしも云っているんだけどね」
あゆみがまた横の万太郎の顔を見るのでありました。
「万さんの実家がある熊本は、亭主関白の土地柄だろう?」
「いや、最近はそうでもないようですよ。ウチの家も母親の方が親父よりも偉そうにしていますし、兄貴も姉貴に子供の頃から万事につけ遣りこめられていましたから」
(続)
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