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お前の番だ! 571 [お前の番だ! 20 創作]

「折野さんも優しいから、屹度すごい愛妻家になると思うわ」
 香乃子ちゃんが云うのでありました。
「それは確かにそうだろうな。その点に関しては俺も受けあうな」
 その良平の言葉を受けてか、あゆみがまた万太郎の顔を見るのでありました。それは本当に愛妻家になってくれるかと訊き質されているようで、万太郎は何となくたじろぎ等を覚えるのでありましたが、まあ、自分はそうなるだろうと思うのでありましたけれど。
「ところで未だ上手く解せないでいるんだが、万さん、こんなに二人の結婚話しがトントン拍子に運んだのは、一体どう云う詳しい経緯があったからなんだい?」
 良平が真顔で万太郎に訊くのでありました。
「直接には、万ちゃんがお父さんの命で、一人で八王子の洞甲斐先生の道場に、看板から、常勝流、の文字を外すようにと、威治さんと洞甲斐先生相手にかけあいに行ったのを、あたしがすごく心配になって、誰に断りも入れずに独断でその後を追いかけたと云うのが、まあ、話しがこんな風に急展開するきっかけになったわけだけど、・・・」
 あゆみが万太郎に代わってその良平の質問に応えるのでありました。あゆみはそう云った後で、少し上目でまたもや万太郎の方を見るのでありましたが、これは万太郎にそうよねと確認と云うのか同意と云うのか、それを求めるための視線でありましょうから、万太郎の方も同じく上目で横のあゆみの目を見て小さく一度頷いて見せるのでありました。
「ああ、その辺りは大方のところは既に聞いて知っていますけど、ならばあゆみさんはどうして、急にそんな行動に打って出たのでしょうかね?」
「それはもう、万ちゃんの事が気が気でなかったからよ」
「気が気でない、と云う気持ちと、だから誰にも云わず断固後を追う、と云うあゆみさんの行動の直接的繋がりが 今一つ自分には明快にならないのですがねえ。つまり心配だけど家でやきもきしながら待つ、と云う選択だって成立するわけですよ」
「それはそうだけど、でもすごく、何て言うのかな、胸騒ぎ、がしたのよ」
 あゆみは良平を納得させられるように上手に自分の行動のモチーフを説明出来ないようで、そんな舌足らずの言をものすのでありました。それからまた万太郎に目を向けるのでありましたが、これは万太郎としては何とも応う能わざる領域の事なので今度は頷かずに困惑顔で、しかし充分の情の深さを籠めてあゆみの目を見返すのみでありましたか。
「後を追わずにはいられないような胸騒ぎ、と云う事ですかね?」
「そうね、まあ、そんなもの」
 あゆみは曖昧に頷くのでありました。
「居ても立ってもいられなくなったのは判りますけど、でも、あゆみ先生が折野さんの後を追ったとしても、あゆみ先生には何が出来たのでしょうか?」
 香乃子ちゃんが一面に於いて全く本質的なところを、意外にあっけらかんとした無邪気な表情でサラッと訊くのでありました。
「それは確かに、飛び出した当のあたしも良くは判らなかったけど」
「でも、何かあったら助太刀しようとしての事でしょう?」
(続)
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