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お前の番だ! 551 [お前の番だ! 19 創作]

 是路総士は万太郎の目を見据えてそんな事を訊くのでありました。
「熊本はその辺は色々煩い土地柄ですが、僕は長男ではありませんから、それは越えられないハードルではありません。僕は実家を屹度説得して見せます」
「ああそうか」
 是路総士は小さく頷くのでありました。「お前自身も、自分の姓が変わる事、それに養子となる事に対して抵抗はないのかな?」
「あゆみさんと一緒になれると云うのに、そんな事には拘っておられまません」
「ああそうか」
 是路総士は万太郎の応えに前と同じ言葉を繰り返して、今度は苦笑いのような呆れた笑いのような、曖昧で微妙な笑みに口の端を動かすのでありました。「では、宗家の婿になると云うのは、名前は元より格としても、この道の序列ではあゆみの下に位置する事になるのだが、そう云った立場に、お前はこの先すっと甘んじていられるか?」
「今でも僕は格下ですから、単にそれが継続するだけです。あゆみさんとはそもそも年季が違うのですから、それはもう僕の中では当為の事となっております」
「ああそうか」
 是路総士はまたまた件の応答を繰り返すのでありましたが、その後今度は少し云い淀む素ぶりを見せるのでありました。「・・・で、お前はあゆみを幸せに出来るか?」
「押忍。何よりもそれを第一に努めます」
 面と向かって訊かれると現状に照らして明快に頷き難いところもあるものの、ここは一番、万太郎は口を真一文字に結んで力強く即答するのでありました。その万太郎の顔を是路総士が無表情で暫く見つめるのは万太郎の真意を見定めようとしてでありましょう。
「あゆみも、折野と一緒になって幸せになれるのだな?」
 是路総士は、今度はあゆみの方に顔を向けるのでありました。
「はい」
 あゆみは全く簡潔に即答するのでありました。万太郎はそのあゆみの言葉を聞いて、熱いものが急に胸にこみ上げてきて、その後にやや恍惚とするのでありました。
 是路総士はまた暫くあゆみの顔を見つめてから、小さく頷くのでありました。この頷きは恐らく是路総士のお許しのサインなのであろうと考えて、万太郎はまたもや胸にこみ上げるものを感じるのでありましたし、その後恍惚となるのは件の如しでありました。
「でも、・・・」
 人生に数度しかないであろう感動に万太郎の胸が膨らみに膨らんでいると云うのに、あゆみの言葉がその増長に少し水を差すのでありました。万太郎はおやと思って、息を忘れて、横に座っているあゆみの方に視線を送るのでありました。
「何だ、何か問題でもあるのか?」
 是路総士もやや身を乗り出してあゆみの顔に注目するのでありました。
「あたしは出来れば、宗家を継ぐのは遠慮したいんだけど。・・・」
「ああ、その事か」
(続)
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