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お前の番だ! 541 [お前の番だ! 19 創作]

「物事を甘く考えているから、判っていてもそれでも無軌道をやらかして仕舞うところが、威治の度し難いところでもありますがね」
 花司馬教士が顰め面をして見せるのでありました。
「では、事の首尾を始めから順を追って細かく聞くとしたいが、その前に、あゆみ」
 是路総士は万太郎の横に畏まるあゆみに怖い目を向けるのでありました。「お前に云っておきたい事があるし、その事に申し開きがあるのなら、それも聞きたい」
 あゆみは思わず瞑目して首を竦めるのでありました。
「勝手に稽古を抜けて、申しわけありませんでした」
 あゆみは是路総士が云う前に、そう云って低頭するのでありました。
「お前が勝手な事をするものだから、花司馬君が迷惑を蒙った」
「花司馬先生、申しわけありませんでした」
 あゆみは花司馬教士の方に体ごと向いて、最敬礼に近いお辞儀をするのでありました。
「いやまあ、迷惑と云う程ではありませんでしたが」
 花司馬教士は笑って、あゆみの方に掌をひらひらと横に何度かふるのでありました。「どうせ夕方家に帰ってもやる事もありませんから、今日は最後の稽古まで補助として道場に居る心算でおりましたし、それが中心指導に変わっただけです」
「花司馬君はこう云ってくれているが、お前のやったその事には大いに問題がある。お前は無断で仕事放棄したようなものだからな」
 是路総士はあゆみへの糾弾を緩める気配を見せないのでありました。
「総士先生、私には予め中心指導を代わってくれと云う申し入れはありました。それで先に云ったような理由から、私はそれを気安く請け負ったと云う次第です」
 花司馬教士はあゆみを庇うのでありました。
「しかし私には何の断りもなく、フラッといなくなって仕舞った」
「そりゃあ、総士先生に云うには億劫な理由が、あゆみ先生におありだったのでしょう」
「その億劫な理由とは何だ、あゆみ?」
 是路総士はあゆみを睨むのでありました。
「ああいや、億劫な理由があったのだろうと云うのは、私の推測です。ただ心急いていて、総士先生にお話しする暇がなかった、と云う事かも知れませんし」
 立つ瀬もなく、消えてなくなりそうな風情で項垂れているあゆみを見兼ねて、花司馬教士は慌ててそう言葉をつけ足して見せるのでありました。
「では、何ゆえにそんなに心急きだったんだ、あゆみ?」
 是路総士は難詰の言葉を変更するのでありました。
「それはもう、折野先生の事が心配で堪らなかったと云う事でしょう。・・・ああいや、心配で堪らなかったのかも知れないと云う、これも私の想像ですけれど」
 花司馬教士はあゆみに成り変わって弁明をするのでありましたが、ちっともきっぱりしていないし、何より、云い様が妙に下手クソであると万太郎は思うのでありました。どだい云いわけなんぞと云うのは、花司馬教士には向かない仕業なのでありましょう。
(続)
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