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お前の番だ! 382 [お前の番だ! 13 創作]

「威治先生が常勝流の名前よりも、自分のやり方に拘るなら、これまでと同様の交誼は止しにすると云う事になりますね?」
 万太郎は是路総士に念を押すような聞き方をするのでありました。
「ま、そうなれば致し方ないな」
「絶交、と云う事でしょうか?」
「こちらからは何も交流を求めないだけだ」
「この先、と云ってもかなりの先ですが、ひょっとして情勢が代わって、向こうからコンタクトを求めてくるような場合は、接触を持つ事もあるのでしょうか?」
「実はそう願うところではある。何と云っても威治君は道分さんの血を受けた子供だからなあ。私としても出来る事なら、この世界で身が立つように力になってやりたい」
「しかし勿論、今の儘の了見じゃあ、総士先生もお力にはなれないと云う事だ」
 鳥枝範士が是路総士に成り代わって言葉を続けるのでありました。是路総士は鳥枝範士のその補言が終わると、ごく小さく頷いて見せるのでありました。
 この間、あゆみは是路総士と鳥枝範士、それに万太郎の話しを聞いているだけで 会話の輪から少し距離を置いたような風情で、何も自ら発言をしないのでありました。それは、自分如き若輩が敢えて発言するのは畏れ多いと云う一種の謙譲からか、それともあんまり愉快でない因縁のある威治筆頭範士の動静が話題の中心にあるので、心秘かに忌避したいがためにそうしているのか、それは万太郎には明瞭には判断出来ないのでありました。
 若輩と云えば万太郎は年齢とキャリア、それに役職の上でも、あゆみよりももっと若輩と云うものであります。ならば自分もあゆみの態度を見習って、行儀よく、是路総士と鳥枝範士の会話を聞くだけに徹しているべきだったのかも知れないと反省するのでありましたが、まあこれは、この時俎上に上がっている主題とは何の関係もない事でありますが。

 それから旬日程経った或る日、鳥枝範士の知りあいである興堂派理事の佐栗真寿史氏と、興堂派広島支部長の須地賀徹氏が揃って総本部を訪ねて来るのでありました。この日は寄敷範士の指導日でありましたが、是路総士と、それに後から合流する鳥枝範士も交えて五人で話しをすると云うので、夜の一般門下生稽古は万太郎が中心指導を代わるのでありましたし、あゆみの方は小金井に出張指導に行っているのでありました。
 稽古を終えて万太郎が準内弟子の片倉、山田の両名と伴に母屋の食堂帰ってくると、程なく師範控えの間の廊下に伺候していた来間が、お客さんがお帰りになると告げに来るのでありました。取って返す来間と一緒に、万太郎も座敷の方に向かうのでありました。
 二人が師範控えの間前の廊下まで来ると、丁度座敷の障子戸が開くのでありました。万太郎と来間は慌てて廊下隅に正坐して律義らしい物腰で床に両手をつくのでありました。
「おお、折野も居たか」
 最初に出てきた寄敷範士が廊下に畏まる二人に声をかけるのでありました。万太郎と来間は先ず、その寄敷範士に対して座礼を送るのでありました。
「押忍。お客様のお帰りと聞きましたので、お見送りに伺候いたしました」
(続)
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