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お前の番だ! 313 [お前の番だ! 11 創作]

「あたしが一生結婚しない場合だって考えられるわ」
 あゆみがそんな事も云い添えるのでありました。
「何れにしても、是路家と常勝流の関係を総士先生がさばさばとお考えになっていらっしゃるなら、寧ろあゆみさんが神保町の若先生と一緒になって、宗家が道分家に移るとしても、それも総士先生は許容されると云う事にもなりはしませんか?」
「まあそれも、考えられる様々の推移の一つではあるけどね」
「道分先生のその点へのご執心が濃ければ、総士先生のさばさばしたお気持ちは、力学上、道分先生のお考えに添う方向に流れるのではないでしょうか?」
「でもあたしは、威治さんと結婚なんかしないんだから」
 あゆみは再度断言するのでありました。
「またもう一方で、あゆみさんが若先生と結婚されないし、その意思を総士先生が尊重されるとして、常勝流宗家と云うものはその場合どのように落ち着くのでしょうか?」
「それは全く、今の段階では判らないわ」
「この件に関して決定に影響力のある方と云えば、総士先生が先ず筆頭で、その次に道分先生、それから鳥枝先生や寄敷先生と続くでしょうし、常勝流を後援してくださっている門外の多くの方々の考えも、全く無関係な事だと云うわけにはいきません」
 常勝流を後援してくださっている門外の多くの方々、と云うのは、鳥枝建設を筆頭に十社余りある法人賛助会員、それに是路総士と交流のある各古武道流派宗家の人達、それに個人的な好意で常勝流を応援してくれている個人賛助会員の事であります。云ってみれば常勝流後援名士会、或いはもっとくだけて云うとファンクラブのようなものでありますか。
「幸いなことに常勝流は古武道界の中に在っては、群を抜く大所帯の体術の流派で、こんな大きな流派は、合気道の元になった大東流と云う流派の他には見当たらないでしょう。そんな大流派の宗家に生まれた者の常として、総ての門下生は元よりそう云った後援者の方々に最良の一挙一動を期待されているのは、これはもう宿命のようなものだと思います」
 そんな事を云い出す万太郎に、あゆみはやや警戒の眼光を向けるのでありました。
「つまり、万ちゃんは何を云いたいわけ?」
「で、そんな方々の中でも、道分先生の影響力と云うのは随一でしょう。この辺りを充分計算した上での、道分先生の今回のあゆみさんと若先生の縁談話しだとすると、これはなかなかあっさりと、一筋縄ではあゆみさんの了見を貫く事は出来ないかも知れませんよ」
 その万太郎の言葉にあゆみは顔を顰めて見せるのでありました。
「でも、あたしにはその気がないし、お父さんもあたしの意向を尊重してくれるわけだから、それを先ず前提にした上で、宗家の問題を論じるのが筋道じゃない?」
「それはまあ、云うまでもなく、その通りですが。・・・」
 万太郎はそこでふと、自分が何のために話しを整理しようとしているのかに気づくのでありました。それは要するにあゆみには絶対、威治教士と結婚する意志がないのだと云う事の確認と、それからその確認を脅かすような周りの状況が、万が一にも生じる可能性がないかと云う点を、自分の中でしっかり点検して安心を得るための作業のようであります。
(続)
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