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お前の番だ! 312 [お前の番だ! 11 創作]

「つまり万ちゃんは、道分先生が常勝流の簒奪を狙っているって事を云いたいわけ?」
 あゆみがいやにはっきりとした事を云うのでありました。
「いや、簒奪と云うのは余りに不穏当で適切な言葉ではないと思いますが、でも、あゆみさんと若先生が一緒になれば、その辺の問題も当然出てくるんじゃないでしょうか?」
「それは場合に依ってはそうかも知れないけど」
「ひょっとしたら道分先生はそう云う読みから、あゆみさんと若先生の縁談を何とか成就させたいとお考えなのかもしれないと、勘繰ろうと思えば勘繰れるじゃありませんか。常勝流の将来の跡継ぎ問題にも関わるとなると、色々考えてみて、総士先生の一人娘であるあゆみさんも、あんまり無下には断れない部分があるんじゃないでしょうかね?」
「無下に断るわよ、あたしは!」
 あゆみが断固として云い放つのでありました。「だってお父さんも、あたしの気持ちが第一だって云ってくれたんだから、きっぱり断るわよそんなもの」
 あゆみはやや興奮気味に捲し立てるのでありました。
「昔から家元の家系に生まれた長女は、結婚に関して何かと小難しい問題が起こると云うのは、世間の通り相場と云うように一般論として聞いていますし」
「でも第一、道分先生が常勝流を簒奪する魂胆があると判れば、それこそあたしが威治さんと結婚するのは、常勝流宗家のお父さんにとって好ましからぬ事なわけじゃない」
「しかし古武道の世界は如何にも古めかしい考えに支配されている世界ですし、その辺りを総士先生がどのようにお考えになっているのか。・・・」
「そう云えばお父さんは前から、武道流派の存続は血筋の存続とは無関係の事だって云っていたわ。流派と云うのは技術を継承していく事を目的とする集団の事で、宗家の血を継承するために出来上がったわけじゃないってね。だから宗家と云っても、それは技術の継承のために誰よりも尽くす家の事で、それ以上の意味なんか本当はないんだって」
 あゆみがふと思い出したように云うのでありました。
「ああ成程。それは慎に正論でしょうね」
「お父さんがそう云う事を云っていたのは、ひょっとしたらあたしが一人娘だから、そこで血脈が途切れるかも知れないって、そう考えたからかも知れないわね。今回の事であたしの意向を何よりも優先したいと云うお父さんの気持ちは、常勝流宗家が我が家の血脈から離れる事があっても、それはそれで構わないと云う思いからかも知れないわ」
「と云う事は、総士先生は道分家に宗家が移っても構わないとお考えだと云うので?」
「はっきり確かめたわけじゃないけど、屹度血の継承には拘っていないと思うわ」
「話しがあれこれこみ入ってきたので、ちょっと整理しましょう」
 万太郎はそう云ってから冷めたコーヒーをまた口に少量含むのでありました。「総士先生が是路家の血筋の継承に拘っていらっしゃらないとして、それは一人娘であるあゆみさんが道統を継がない可能性があっても、それを許容すると云うお覚悟だとしましょう。あゆみさん自身も前に云っていらした事ですが、古武道の世界は女性が宗家を継ぐのに何かと意見の多い世界でもあり、あゆみさんが他家に嫁ぐと云う事もあり得るのですから」
(続)
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