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お前の番だ! 205 [お前の番だ! 7 創作]

 あゆみが大岸先生の方を向きながら少し話しの舳先を曲げるのでありました。
「その助手達を束ねるのが、万ちゃんと云う事になるわけね?」
 大岸先生がトウモロコシを摘んだ儘万太郎を指差すのでありました。
「さあ、どういう風な機構を総士先生がお考えなのか、今の内は良く判りませんが」
 そう応えながら万太郎は、恐らく専門稽古生の中で手伝いの出来る連中と云ったら、時間的な縛りを鑑みると社会人よりは未だ学生身分の者達となるであろうし、どだい専門稽古生は男ばかりであるから、あゆみよりは自分がそれを束ねる役を仰せつかるのであろうと考えるのでありました。まあ、未だ是路総士の腹案は明らかではないのでありますが。
「そうなるなら万ちゃんは、楽は出来ないわね。それどころか、新米内弟子さんやら助手さんやらの世話も増えて、もっと色々面倒な仕事が増えるかも知れないわね」
「さっき云ったように、どう云う機構になるのか未だ判りませんが、どうなっても僕としてはまあ、これまで通り呑気に切り抜けますよ」
 万太郎はそう云ってトウモロコシの芯に歯を当てて汁を吸うのでありました。穀物の甘みが口一杯に広がるのでありましたが、万太郎はこの味が無性に好きなのでありました。
 さて、その日の夜遅くに帰った良平と内弟子部屋で布団の上に差し向いに座って、万太郎は良平が香乃子ちゃんの実家から貰ってきた箱根の温泉饅頭を摘んでいるのでありました。何でも向うのおっかさんが先日旅行に行った時のお土産だそうであります。
「良さん、香乃子ちゃんは月曜日だから仕事で居ないと云うのに、良くまあ毎週々々、向うの家に用事があるものですねえ」
 万太郎は良平が電熱器のお湯で淹れてくれたインスタントコーヒーの入ったマグカップを、熱さに気をつけながら唇に近づけつつ云うのでありました。
「ま、庭とか家の中の高い処の掃除とか、重かったり嵩張ったりする物の買い物とか、色々おっかさんに重宝に扱き使われているわけだ」
「それじゃあすっかり、この道場に居るのと同じだ。しかしまあここが一番、良さんの忠義の見せどころと云うわけですかね?」
「ま、そう云う事だね。近い内に転がりこむ身としては、転がりこませ甲斐のあるところを、今からちゃんと見せておいてやろうと云う魂胆だ」
「で、夕方に香乃子ちゃんが帰って来て、それからデートと云うわけですか?」
「うん。向こうの家で帰りを待っている場合もあるし、俺が新宿まで迎えに行く場合もあるし、その辺はまあ、色々」
 良平はそう云った後で温泉饅頭を丸ごと一つ口に放りこむのでありました。「俺の懐具合からすれば、外でデートするより向うの家で夕飯をご馳走になる方が実は有難い」
「しかしそれでは二人きりになれないし」
「まあ、その辺りが難しいところだ。俺にぞっこんの香乃子としては、外で二人きりで映画を見たり、食事をしたり酒を飲みに行ったりとかのデートがしたいようだけどなあ」
 良平は抜け々々とそんな事をほざくのでありました。
「そりゃまあ、どうぞどうなりとご勝手に」
(続)
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