お前の番だ! 189 [お前の番だ! 7 創作]
「ま、そう云うなら良君も狸だけどね」
「同じ穴の貉、と云うか、狸、と云うか。二人共結構やりますねえ」
万太郎は腕組みして感心したような表情をするのでありました。
「何時も一緒にいる万ちゃんに、良君は本当に何も相談とかしなかったの?」
「この顔が、そう云った色っぽい相談に適した顔だと思いますか?」
万太郎は至極真面目に自分の顔を指差して見せるのでありました。あゆみがその万太郎の仕草を見て少し吹くのでありました。
「全く不適切でもないと思うけどさ」
「相談するなら良さんは、僕よりも新木奈さんに相談しているかも知れませんよ」
「新木奈さんて、一般門下生の新木奈さん?」
「そうです。この頃良さんは僕なんかよりも新木奈さんと睦んでいますからね。何となくあの二人は気があうみたいですよ」
「へえそうなの。それは知らなかったわ」
最近の良平は新木奈と言葉を交わす時等は、新木奈の方が歳上でありますから丁寧な言葉つきは崩さないまでも、昵懇と云った風のややくだけた感じで話しているように見受けられるのでありました。新木奈の方も良平の良い兄貴気取りと云った風でありますか。
夜の稽古後に、内弟子稽古がない場合には時々仙川駅近くの居酒屋なんかで待ちあわせて、二人で酒を飲んだりする事もあるようでありました。道場休みの月曜日とか、勿論良平は香乃子ちゃんと逢うのが最優先ではあったでありましょうが、新木奈の仕事が終わった夜に、彼とも新宿辺りで待ちあわせて一緒に遊んだりもしているようでありました。
「時々良さんが、夕食を外で取る場合があったでしょう。そんな時大概は新木奈さんと遊んでいるものとばかり思っていましたよ、僕は。しかし相手が新木奈さんだけじゃなくて香乃子ちゃんの場合も多分にあったとは、今の今までちっとも知りませんでしたね」
「あたしは良君が夕食は要らない、なんて云う日は、偶には一人で気儘に好きなものを食べたいのだろうだろうなって、それくらいしか思わなかったけどさ」
「ところがどっこい、と云うところですかね」
「そうね。良君の無表情にあたし達、随分長く見事に騙されていたわね」
あゆみは万太郎に共感の笑みを送るのでありました。「でもところで、良君が新木奈さんと遊ぶ時には、万ちゃんも誘わないの?」
「いやあ、それはありませんでしたね。僕はどちらかと云うと新木奈さんは苦手ですし」
「ああ、それは傍で見ていても何となく判るわ」
あゆみが一つ頷くのでありました。
「若し誘われたとしても僕は遠慮しときます。で、僕がそんなだから、新木奈さんの方も僕に対しては何となく屈託があるでしょうし、敢えて誘う気もないんじゃないですかね」
「ふうん、そうなんだ」
あゆみはやや口を引き結んで何度かゆっくり、また頷くのでありました。
「いや、そんな事より、一週間くらい前に香乃子ちゃんから相談を受けたんですか?」
(続)
「同じ穴の貉、と云うか、狸、と云うか。二人共結構やりますねえ」
万太郎は腕組みして感心したような表情をするのでありました。
「何時も一緒にいる万ちゃんに、良君は本当に何も相談とかしなかったの?」
「この顔が、そう云った色っぽい相談に適した顔だと思いますか?」
万太郎は至極真面目に自分の顔を指差して見せるのでありました。あゆみがその万太郎の仕草を見て少し吹くのでありました。
「全く不適切でもないと思うけどさ」
「相談するなら良さんは、僕よりも新木奈さんに相談しているかも知れませんよ」
「新木奈さんて、一般門下生の新木奈さん?」
「そうです。この頃良さんは僕なんかよりも新木奈さんと睦んでいますからね。何となくあの二人は気があうみたいですよ」
「へえそうなの。それは知らなかったわ」
最近の良平は新木奈と言葉を交わす時等は、新木奈の方が歳上でありますから丁寧な言葉つきは崩さないまでも、昵懇と云った風のややくだけた感じで話しているように見受けられるのでありました。新木奈の方も良平の良い兄貴気取りと云った風でありますか。
夜の稽古後に、内弟子稽古がない場合には時々仙川駅近くの居酒屋なんかで待ちあわせて、二人で酒を飲んだりする事もあるようでありました。道場休みの月曜日とか、勿論良平は香乃子ちゃんと逢うのが最優先ではあったでありましょうが、新木奈の仕事が終わった夜に、彼とも新宿辺りで待ちあわせて一緒に遊んだりもしているようでありました。
「時々良さんが、夕食を外で取る場合があったでしょう。そんな時大概は新木奈さんと遊んでいるものとばかり思っていましたよ、僕は。しかし相手が新木奈さんだけじゃなくて香乃子ちゃんの場合も多分にあったとは、今の今までちっとも知りませんでしたね」
「あたしは良君が夕食は要らない、なんて云う日は、偶には一人で気儘に好きなものを食べたいのだろうだろうなって、それくらいしか思わなかったけどさ」
「ところがどっこい、と云うところですかね」
「そうね。良君の無表情にあたし達、随分長く見事に騙されていたわね」
あゆみは万太郎に共感の笑みを送るのでありました。「でもところで、良君が新木奈さんと遊ぶ時には、万ちゃんも誘わないの?」
「いやあ、それはありませんでしたね。僕はどちらかと云うと新木奈さんは苦手ですし」
「ああ、それは傍で見ていても何となく判るわ」
あゆみが一つ頷くのでありました。
「若し誘われたとしても僕は遠慮しときます。で、僕がそんなだから、新木奈さんの方も僕に対しては何となく屈託があるでしょうし、敢えて誘う気もないんじゃないですかね」
「ふうん、そうなんだ」
あゆみはやや口を引き結んで何度かゆっくり、また頷くのでありました。
「いや、そんな事より、一週間くらい前に香乃子ちゃんから相談を受けたんですか?」
(続)
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