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もうじやのたわむれ 342 [もうじやのたわむれ 12 創作]

 拙生は驚愕に目を見開いて、序に口もポカンと開けて、大酒呑太郎氏を凝視するのでありました。何やら不穏な息が、大酒呑太郎氏の口から吐き出されているようであります。
「大酒さんが、眠らせたのですか?」
 拙生は口角を引き攣らせるのでありました。
「ええまあそうです」
「逸茂さんの缶コーヒーに睡眠薬でも仕こんだのですか?」
「いや、そんな事はしません。これは一種の催眠術ですな」
「催眠術をお使いになるので? いったい何時の間におかけになったのですか?」
「即応術です。心得はありましてね。いやまあ、そんな事はこの際どうでも宜しい。催眠術と云っても長く眠らせる事は出来ません。精々数分間ですし、それに自然現象を催して席を立った二鬼が、すぐに戻って来たら面倒ですから、ごく手短に私の用件を云います」
 大酒呑太郎氏は拙生のそれ以上の質問を封じるのでありました。「貴方はその気があればこの儘、準娑婆省に留まる事が出来るのですよ」
「しかし私は、黄泉比良坂の洞窟から娑婆に逆戻る目的で、こちらに伺ったのです」
「それはそうですが、準娑婆省に留まる手立てがあります」
「急にそう云われましても、・・・」
「準娑婆省は面白い処ですよ。貴方は娑婆に、悔しい思いをさせられたヤツとか、どうしても意趣返しをしないと気が済まないヤツとかが、いらっしゃいませんかな?」
「ま、いない事もありませんが」
「準娑婆省に留まるなら、そう云うヤツ等に痛快な仕返しをする事が出来ますよ」
「ああ、娑婆にちょっかいを出すわけですね?」
「そうです。胸のすくようなちょっかいが出せます」
「うーん、なかなか好都合と云うのか、魅力的なお話しですが、・・・」
 拙生は少し心が動くのでありました。「しかし私は亡者でして、亡者はこの仮の姿の耐用時間がありますから、結局、石ころに変貌してこちらに留まる事になるのでしょう?」
「いや、技術は日進月歩です」
 大酒呑太郎氏は一つ、力強い頷きをするのでありました。「石ころにならないで、その仮の姿の儘でいられる技術が、準娑婆省の方で秘かに開発されているのです」
「ほう、石ころにならない秘策があるのですか?」
「そうです。その今の体裁の儘でいられるのです」
「この先八百年間、この仮の姿が持つようになるのですか?」
「いや、実を云うとこちらの霊の平均寿命たる八百年と云う数字は、未だ実現不可能です。しかし今の技術でも、少なくとも八十年は大丈夫でしょう。八十年と云えば娑婆の日本人の平均寿命とほぼ同じですから、不足はないとも考えられるのではないでしょうか?」
「それはそうですね。少なくとも私が娑婆にいた年数よりは随分長いですな」
「そうです。そう云う風にお考えになれば良いのです」
「しかし、八十年後にはどうなるのですか?」
(続)
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