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もうじやのたわむれ 343 [もうじやのたわむれ 12 創作]

「もう一度、その秘策の施術を受けて貰えれば良いのですな」
「するとまた、もう八十年間この儘の体裁でいられるわけだ」
「いや、今のところ二回目の施術後は四十年耐用時間が延びますな」
「一回目の半分の耐用時間しか得られないのですか。そうするとその次の施術で二十年、次は十年、その次が五年、・・・となって、竟には結局石ころになるのですかね?」
「今のところはそうなります。しかし先程も云いましたように技術は日進月歩です。その内に一回の施術で数百年間、石ころにならないで済むようになるでしょう。理論的にはその目途もぼちぼち立っているようですからね。ま、将来は明るいですな」
「しかしそんな風にこの仮の姿の耐用時間を伸ばしていくとしても、それでも霊にはなれないのですから、こちらの世の次の、素界、には行けないわけですよね?」
「そうです。しかしこちらの世で永遠の生命を手に入れるのだ、とお考えになれば宜しいのではないですかね。仮の姿の儘で老化もしませんから、正に不老不死ですな」
「しかしあくまでもアウトローとして、存在しないものとして存在するわけですよね」
「アウトロー。結構じゃないですか。その胡散臭さがなかなか格好良いと思いますがね」
「まあ、考えように依ってはそうとも云えますがねえ。・・・」
 拙生は首を傾げて見せるのでありました。
「しかしもう数百年も経って、準娑婆省の省力が飛躍的に上がり、地獄省や極楽省と拮抗するくらいの力を備えるようになれば、そう云う準娑婆省に住む存在を、地獄省も極楽省も認めざるを得なくなるでしょうよ。そうなれば晴れてインローとなりますな」
「まあ、亡者の仮の姿が石ころにならないで済む技術が開発されるくらいですし、準娑婆省の技術レベルも相当に高いと云う事になりますから、産業技術とかの方も実は相当に進んでいると考えられるのでしょうなあ。そうなら準娑婆省が経済とか軍事の面でも、数百年なんと云う単位ではなくて、数十年と云う時間で飛躍的に前進する可能性はあるわけだ」
「いや、産業とか軍事の武器開発とかそう云った方面の技術は、亡者の仮の姿を石ころに変えない技術とは、ちょっと異質のものでして、未だ々々遅れておりますがね」
 大酒呑太郎氏は無表情でクールな事を云うのでありました。
「しかし技術は応用とか転用する事で、社会のあらゆる部面に活用されるのでしょうに」
「その応用とか転用する人材が決定的に不足しているわけです、準娑婆省には」
「それで、極楽省とか地獄省の霊とか鬼の亡命とかを歓迎しているわけだ」
「まあ、そう云う事ですな」
 大酒呑太郎氏は首肯するのでありました。「で、もしも貴方に準娑婆省に留まる気があるのなら、黄泉比良坂の洞窟の中で洞窟使用の受付係をしている、よもつのしこめ姐さんと云う名前の女の老鬼がいますから、その姐さんにこの書状をお見せください」
 大酒呑太郎氏は上着の内ポケットから、奉書紙に包まれた手紙らしきを取り出して、拙生に手渡すのでありました。「これに委細と指示が書いてありますから、見せれば姐さんがその後は上手く手引きしてくれると云う按配です。云うまでもないでしょうが、この書状は補佐官とか護衛官に見つからないように、こっそりと所持しておいてしてくださいよ」
(続)
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