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もうじやのたわむれ 322 [もうじやのたわむれ 11 創作]

「どうも、とんだ事でありました」
 兵士は拙生にも敬礼するのでありました。拙生は補佐官筆頭の真似をして、矢張りぎごちない敬礼を返すのでありました。
「こちらは、地獄省海上防衛隊、じゃなくて川上防衛隊で港湾守備部隊の段古守大尉です」
 補佐官筆頭が拙生に紹介するのでありました。
「段古守です」
 兵士はもう一度拙生に律義に敬礼をするのでありました。
「この港の守備の任に当たられているのですね?」
 拙生は段古守大尉に、訊くまでもない事を愛想で訊くのでありました。
「はい。それと亡者様の港までの、準娑婆省内の移動に関しても責任を負っております」
「ああ、最新鋭の武器を携帯した地獄省の軍人さんが、港までの路程に一定間隔で常駐していて我々亡者の安全を守っていると、前に確か審問官さんや記録官さんに聞きましたね」
「話の腰を折るようですが、我々は厳密に云うと、軍人ではなくて防衛官となります」
 段古守大尉が訂正するのでありました。
「ああそうか。先の第二次省界大戦の敗戦に因り、戦後は地獄省の軍隊は解散させられて、新たに専守防衛の実力組織たる防衛隊となって生まれ変わったのでしたね?」
「そうです。ですから我々はあくまでも軍隊ではなくて防衛隊です。依って我々が属するのも川軍ではなくて、川上防衛隊となります。ま、我々の見た目も任務もその力量も、実のところ軍隊と何ら変わらないのですが、一応憲法の制約とか、左派系のマスコミとか市民団体とか省会議員さん達とか、その他諸々の手前、軍隊であると大見栄を切るわけもいかないわけです。その辺をご斟酌いただけるよう、どうぞよろしくお願いいたします」
「私がこの前までいた娑婆の日本にも、何やらそれに似た事情がありましたから、その辺の面倒臭い機微については私にも充分理解出来ます」
「早速のご了解を有難うございます」
 段古大尉がまたもや敬礼をするのでありました。
「それはともかくとして、我々の準娑婆省内での移動に関しては、武装したこの段古大尉とその部下の方々が護衛してくれます」
 補佐官筆頭がそう云うと、段古大尉の後ろに直立していた二鬼の、部下と思しき防衛隊員が揃って、きびきびとした動作で拙生に敬礼するのでありました。
「武装されているとは云うものの、ライフル銃とかはお持ちでないので?」
「準娑婆省の街中の移動となりますので、大型の目立つ武器は携帯いたしません。所持しているのは拳銃と短剣、それに小型の手榴弾と云うところですかな。それから拳銃に装填して発射出来る発煙弾とか催涙弾なんかも、一応複数個所持しております」
「訊いてみるとなかなかの装備ですね」
「いやまあ、そう云ったものを使用する事は先ずないでしょうが、あくまでも念のためです。我々が地獄省川上防衛隊の陸戦用戦闘服を着用しているだけでも、準娑婆省の連中に対して、恐らく充分なる威圧感を与える事が出来るでしょうからね」
(続)
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