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もうじやのたわむれ 285 [もうじやのたわむれ 10 創作]

「娑婆と同じ名前にしておいた方が色々面白いとか云う横着な理由、なんと今云われましたが、それは何が横着で、それに、誰がどのように面白いわけでしょうか?」
 拙生はちょっとその辺に、ふと拘るのでありました。
「いやまあ、何が横着かとか、誰がどのように面白いのか、とか訊かれたら、ワシとしてはここでは曖昧にしか応えられんのじゃが、・・・」
 閻魔大王官は口籠るのでありました。「ま、その辺はこの際どうでもエエわいの」
「葛飾柴又、みたいに娑婆とすっかり同じになったり、お茶の水、が、お茶のお湯、と云う風に少し変化したり、こちらの世だけにしかない地名がついたりするのは、ちゃんとした法則があるのではなくて、全く恣意的な理由からと云う事ですね?」
「そうじゃな。ま、趣味の領域、とでも云うべきかのう」
「成程ね、判りました」
 拙生はそう云いながらメモを上着のポケットに仕舞うのでありました。
「質問はそれくらいかのう?」
「ええと、未だ幾つかあったような気がしますが、・・・」
 拙生は腕組みをして天井を向いて、考えこむ仕草をするのでありました。
「遠慮のう訊いておくれよ。後で、あれを訊いておけば良かった、なんと生まれ変わり準備室で悔やんでもつまらんからのう」
「ああそうだそうだ、これを質問しておきたかったんだ」
 拙生は自得の頷きをするのでありました。「例えば娑婆で男だった亡者は、こちらの世でも男に生まれ変わるのでしょうかね?」
 拙生は腕組みを解いて訊ねるのでありました。
「いや、そうとは限らんのう。前の説明でお手前ももう判っておろうが、娑婆の一切がこちらでは一旦ご破産になるのじゃから、性別なんと云うのも例外ではないわいの」
「ああそうですか。判りました」
 拙生はあっさり納得するのでありました。
「他には何かあるかいの?」
「ええと、それから、・・・」
 拙生はまた腕組みをして首を傾げるのでありました。
「或る種のサービス精神から態々無理矢理に、あれこれ質問を捻り出さんでも構わんぞい」
「いや、そんな了見ではなくて、確か未だ二三、質問があった筈ですが。・・・」
 拙生は首を傾げた儘口を尖らすのでありました。「ええと、ああ、思い出しました。こちらの世と娑婆とでは時間の流れに差があるのでしょうか?」
「時間の流れとは?」
「いやね、宿泊施設で夜酒を飲みながら寛いでいる時に、娑婆に未だいる筈のカカアが突然私の頭の中に現れましてね、カカアが云うには、向うでは未だ私の葬儀の真っ最中なんだそうですよ。私は閻魔大王官さんの審理に臨んでいるのですから、もう三十五日が経ったとばかり思っていたのですが、向うでは未だ二日間しか経っていないらしいのです」
(続)
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