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もうじやのたわむれ 284 [もうじやのたわむれ 10 創作]

「急に放出不可能になる事態とは、例えばどんな事態じゃな?」
 閻魔大王官が逆に拙生に訊ねるのでありました。
「まあそれは色々な事態が考えられます。しかし話しが不謹慎になる恐れがあるので、具体的な微に入り細に入りの説明や描写は避けたいと思いますが」
 拙生はそう云いながらおどおどと閻魔大王官から目を離すのでありました。
「ああそうかいの。それにつけても、まあ、ご心配召されるな」
閻魔大王官はニヤニヤ笑いながら、巻物を顔の前で左右に何度かふるのでありました。「若し何らかの理由で上首尾といかんかったとしても、その魂魄はまた閻魔庁の生まれ変わり準備室に飛んで戻って来るだけの話しじゃ。そいで以って次の指令に備えるのじゃ。それに、戻って来た魂魄は、生まれ変わりの順番を一番後に回されると云う事はなくてじゃな、優先的に指令を受けられるようになっておるでのう。その辺は融通が利くわいの」
「ああそうですか。何度でもチャレンジ出来るわけですね?」
「はいな。そう云うこっちゃわい」
 閻魔大王官は巻物を文机の上に置いて、両手でピースサインをするのでありました。
「そんなこんなで総てが上首尾となれば、それで以って我々亡者は、こちらの世の新たな霊として、生まれ変わりがほぼ約束されるのですね?」
「はいな。そう云うこっちゃわい」
 閻魔大王官は同じ言葉を繰り返して、愛嬌にピースサインを作った儘にしていた両手の指を、何度かピコピコと折り曲げたり伸ばしたりするのでありました。
「後もう一つ程質問があるのですが」
 拙生はメモを見ながら声の調子を変えるのでありました。
「ほい、何じゃな?」
「こちらの世の地名の事なんですが、こちらには娑婆と同じ地名とこちらの世独自の地名が併存しているようですが、何か明確なわけとか由縁でもあるのでしょうか?」
「ああ、地名の事かいの。いやそれは、特にはっきりとした理由も由来もないわいの。大体地名なんと云うものは、これこれこう云うわけでこの地名に決定します、なんと云うはっきりした理由でついたところは意外に少なかろうしのう。何と云うのか、誰云うともなく地形的な特徴やら、そこに元々在った特別な事物に因んだ名前辺りがつくのが自然じゃろうが、こちらの世も大凡はそんなところじゃわいの。娑婆でもそう云うものじゃろう?」
「私はその辺りは詳しくはないのですが、まあ、そんな感じでしょうかねえ」
「時に、政治家とか誰ぞを顕彰するとか云う無粋な了見で、霊の名前が地名として採用されたりする場合も過去にあったが、そう云う如何にも作為的な命名は、後であっさり変更されたりして、長く親しまれる地名とはならんわい。この辺も多分娑婆と同じじゃろうて」
「ああそうですか」
「娑婆の地名がその儘ついた処は、時の地方知事や郡長の思いつきでそうなった処もあれば、住霊投票によって決まった処もあれば、何となく娑婆と同じ名前にしておいた方が色々面白いとか云う横着な理由に因るのじゃろうが、これも云ってみれば作為的な命名じゃな」
(続)
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