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もうじやのたわむれ 222 [もうじやのたわむれ 8 創作]

「いや、先輩程じゃありません」
 発羅津玄喜氏が逸茂厳記氏に向かって、大学の体育会の学生のような、背筋の伸びたきびきびした動作のお辞儀をするのでありました。
「何を云うか」
 逸茂厳記氏が発羅津玄喜氏の肩を拳で軽く叩くのでありました。「学生時代からお前ほどノリノリで、周りに自分の歌の上手さを見せつけるように歌うヤツは見た事がないぜ」
「押忍」
 発羅津玄喜氏がまたも固い礼をするのでありました。
「お二人は同じ学校の出身でいらっしゃるので?」
 拙生は二人の、いや二鬼の顔を交互に見ながら訊くのでありました。
「ええ。同じ大学の日本拳法部の、二年違いの先輩後輩の仲です。勿論私が上級生です」
 逸茂厳記氏が教えてくれるのでありました。
「私は大学を出た後就職口がなかったのですが、逸茂先輩に閻魔庁に誘っていただいて、それで就職試験を受けて、同じ警護係で仕事をする事になったのです」
 発羅津玄喜氏がそうつけ足すのでありました。
「日本拳法部ご出身なら、警護の仕事はピッタリですね。ところで、邪馬台拳法、ではなくて、こちらでも日本拳法は日本拳法と、娑婆の日本と云う国名をつけて呼ぶのですね?」
「ええ。日本拳法、と普通に呼びます。該道が娑婆の日本と云う地で発祥した武道であると云うのは、一応歴史として知っております」
「まあ、向うにある武道は総てこちらにもあると、貴方達の上司である賀亜土万三氏から伺ったことがありますね。ああ、その時逸茂さんは一緒にいらっしゃいましたよね」
「ええ。邪馬台郡中央警察署にお迎えに上がった時の事ですね」
「そうです。それでその後、柔道、剣道、合気道、空手、薙刀、水泳術、槍、弓、馬、未、申、酉、戌、・・・なんと云う、娑婆の落語家の春風亭柳昇師匠のような冗談を仰いました」
「そうでしたね。その未申酉戌は、実は私達も警護係の新人歓迎会の宴席で聞かされるのですよ。毎年新人歓迎会で、賀亜土係長はそのネタを云うのが慣例となっております。新人は面白がるのですが、我々古手にはもう天忍穂耳にタコですよ」
 逸茂厳記氏は、耳にタコ、を日本神話に出てくる神名で以ってそう云う風に、すかたんするのでありましたが、地獄省の鬼の洒落としては熟成度が今一つであると、拙生は秘かに思うのでありました。まだ若いだけにその辺の修行は不足しているのでありましょう。
「ああ、ここで何時までもこんな話しをしていても仕方がありませんから、ぼちぼち寄席見物に出発するといたしましょうかな」
 拙生は二人を、いや二鬼を促すのでありました。
 我々はまたフロント奥の従業員専用エレベーターで下に降りて、昨日と同じ、閻魔庁と前のドアに大書してある車に乗りこむのでありました。
「六道辻亭の昼席は午後二時からとなっております」
 逸茂厳記氏が車の助手席から後ろを振り返って云うのでありました。
(続)
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