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もうじやのたわむれ 154 [もうじやのたわむれ 6 創作]

「まあ兎に角、夜の繁華街は危険であると云う事ですね?」
「その通りです。事件は夜に起こります。ですから私としましては、夕方までに施設の方にお戻りになる事を強くお勧め致します。亡者様のためにも。ま、それでも是非とも夜の繁華街を視察してみたいと仰るのなら、それをお止めする権限は私にはありませんが」
 コンシェルジュはそう云って、厳粛な顔で一つ頷くのでありました。
「ああそうですか。そう云う事なら貴方のその助言に従った方が無難ですかな。私は明日も明後日も、行こうと思えば散歩に出る事が出来ますからね」
 拙生はそう云いながら、今までずっと黙った儘で拙生とコンシェルジュの話しを聞いていた、隣に座っている散歩の連れとなるはずの男に顔を向けるのでありました。男も拙生の方を見るのでありました。拙生は眉をひょいと上げて見せて、貴公の方は夜の繁華街をうろつかないとしても別に不満はないかと、表情だけで問いかけるのでありました。男は拙生の問いかけをすぐに了解して、拙生に向かって話し始めるのでありました。
「私は別に夜の繁華街の散歩には拘りませんよ。私は明日も散歩に出るなんと云う事は出来ませんが、しかし私の方は視察目的ではなくて、単なる気散じにおつきあいさせて貰うだけですからね。それに夕方にはここに戻って、明日の審理に備えて生まれ変わり地決定の最後の思い悩みをしなければなりませんからね。若し貴方が夜まで散歩を継続されるようなら、私は一足お先に失礼させて貰って、こちらに戻ろうかと思っておりましたから」
「では、繁華街の先の、一般の省霊が住む住宅地辺りをふらっと歩いて、今日のところはそこまでで散歩は切り上げるとしましょうかな」
 拙生が云うと、連れの男は同意の頷きをするのでありました。
「そうなさいませ。この施設の中でも夜は色々楽しめますから、散歩から戻られて、若し退屈なようでしたら、また何なりとご相談頂ければと思います」
 コンシェルジュはそう云って、万年筆を上着の内ポケットに仕舞うのでありました。
「私は明日も意欲的に外に出て旅行気分を味わいたいと思っておりますから、また明日の朝、色々ご相談させて頂きますよ。明日は近場の名所旧跡なんかを巡りたいものですな」
 拙生はデスクに両手をついて、立ち上がる素ぶりをして見せるのでありました。
「ああそうですか。では私の方でも、効率よく名所旧跡を巡れるようあれこれ考えておきましょう。ああそれから、これをお貸し致しますから、どうそご活用ください」
 コンシェルジュはそう云ってデスクの引き出しを開けて、中から腕時計を二つ取り出すのでありました。「時間が判らないと何かとご不便でしょうから」
「ああ、これは恐れ入ります」
 拙生はデスクについていた両手を浮かせて、腕時計を受け取るのでありました。
「それから若し道に迷ったりした時のために、携帯電話の貸し出しサービスをしておりますので、ご必要であればお出かけの時にフロントにお申しつけください。携帯電話もこの時計も、お戻りになったら一緒にフロントにお返し頂ければ結構です」
「ああ、これは行き届いた事で」
 拙生はお辞儀しながらそう云って、連れの男共々立ち上がるのでありました。
(続)
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