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もうじやのたわむれ 127 [もうじやのたわむれ 5 創作]

「まあ、お主の出張の目的の委細はこの際どうでもエエとするかいの」
 閻魔大王官は全く呑気に、その目的に頓着しない風情で云うのでありました。「その準娑婆省への出張は、何処に出張したのかえ?」
「ええ、準娑婆省政府肝煎りで設立された、娑婆交流協会と云うものが向こうにありまして、そこの会長さんの処へ行ったのです」
「娑婆交流協会? あんまり聞かん団体じゃのう」
「むこうの連中が娑婆にちょっかいを出して面白がる場合に、一定の規制に従って手出しさせるための監視団体であります。無闇矢鱈と色んな連中がちょっかいを出すのを整理して、娑婆の方にあんまり迷惑をかけないようにしようと云う、準娑婆省の良心的自己抑制機関ですな、云ってみれば。一応、霊間団体の体裁をとっておりますが、協会幹部の殆どは準娑婆省の行政庁官僚が兼務しておるのが現状です。娑婆にちょっかいを出す場合は、その交流協会が推薦して、準娑婆省当局が発行するちょっかい免許が必要となるのです」
「その、霊間団体、と云うのは娑婆で云えば、民間団体、ですね?」
 拙生が聞くのでありました。
「はい正解!」
 補佐官筆頭が片手に持っている巻物を宙に放り上げて、それが手に落ちてくる間に素早く、放り上げたその手でピースサインをして、次の瞬間には巻物を上手にキャッチするのでありました。なかなか器用な真似をする補佐官筆頭であります。
「その交流協会の会長さんとやらは、何と云う名前のお方かいの?」
「ええ、大岩さんと云う女性の方です」
「お岩さん?」
 これは拙生が訊いた言葉でありました。
「いや、大岩さんです。もうかなり高齢の女性なのですが、何故か妙に下ネタがお好きで、会話の端々に艶っぽいワイ談なんか挿入されましてね、なかなか捌けた魅力的なお婆さんですよ。娑婆にいらした頃は、新宿だったか池袋だったか上野だったかにお住まいになっていたと伺いました。趣味は四谷公会堂で落語を、特に怪談噺を聴く事だったそうです」
「・・・、公会堂四谷ワイ談、の、お岩さん」
 拙生は小声でそう独り言を云うのでありました。
「なんですか?」
 拙生の独り言に、補佐官筆頭が引っかかるのでありました。
「いや、何でもありません」
 拙生は頭を掻きながらもじもじと下を向くのでありました。
「その大岩さんと云う婆さんも昔、娑婆にお娑婆ら、いや、おさらばして亡者となった後、こちらへ来ずに準娑婆省に留まったクチかいの?」
「はい。そのように伺いました」
「向こうに居る鬼類ではないのじゃな?」
「いや、亡者出身の方だそうです。もうあと数年で、鬼としての籍を取得出来るそうです」
(続)
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