もうじやのたわむれ 128 [もうじやのたわむれ 5 創作]
「ちょっとお話しの途中で失礼致しますが」
拙生は話の腰を折るのでありました。「今、四谷公会堂と仰いましたが、そんな施設が娑婆の新宿区四谷にありましたかね?」
「おや、ありませんでしたか?」
補佐官筆頭が拙生にひょいと眉を上げて見せるのでありました。
「多分、なかったように思いますが」
「渋谷公会堂でしたかな、そうすると」
「渋谷公会堂では落語はやらないでしょう」
「ああ、そうですか。なにせ前の事で、その辺はあやふやにしか覚えておりません」
「いやまあ、ひょっとして何処か別の処に、四谷公会堂と云う名前の施設が在るのかも知れませんがね。例えば東京の府中市にも四谷と云う地名がありますからね」
「私は娑婆の事情には疎いもので、施設名が間違っていたらご容赦ください」
補佐官筆頭はそう云って拙生にお辞儀するのでありました。
「いやね、態々、四谷公会堂、なんと仰ったのは、実は、東海道四谷怪談、まあ、公会堂四谷ワイ談、となりそうですが、兎に角そう云う地口をなんとか成立させるための、些か無理矢理の言葉のふり当ての意図を隠して仰ったのではないのですかね? ちょいとそう勘繰ったものですから、無粋は重々承知の上で、敢えてお聞きいたしますがね」
「何の事でしょうか?」
補佐官筆頭は全くクールにそう云って、惚けた顔をするのでありました。
「いやまあ、何でもないと云えば、何でもありませんけど。・・・」
拙生は呟いて補佐官筆頭から目を逸らすのでありました。
「お主がその大岩さんとやらと面接した折、他には誰ぞおらんかったかいの?」
閻魔大王官が拙生の言葉が終わるのを待って、補佐官筆頭に訊くのでありました。
「ええと、どう云う技術部門かはもう失念して仕舞いましたが、兎に角、技官をしておられると云う亀屋東西さん、この方は娑婆では鶴屋南北と云うお名前でいらしたそうですが、その方と、後は大岩さんの秘書をしておられると云う、林家彦六さんと云う方が一緒にいらっしゃいました。それに準娑婆省の政府筋の方で、大酒吞太郎さんと云う方です」
「大酒呑太郎かいの」
閻魔大王官がそう名前を復唱して、数度頷くのでありました。
「大王官殿はその方をご存知で?」
「おう、知っておるわい。そいつは昔、この閻魔庁でワシの同僚じゃった男じゃ」
「閻魔庁で同僚だった方?」
「そうじゃ」
「大酒呑太郎さんは、昔は地獄省にいらしたのですか?」
「そうじゃな。なかなか優秀なヤツで、ワシの出世競争の好敵手じゃったわい」
「それがなんで、現在は準娑婆省にいらっしゃるのでしょうか?」
補佐官が後ろから身を乗り出して、閻魔大王官の横に顔を近づけるのでありました。
(続)
拙生は話の腰を折るのでありました。「今、四谷公会堂と仰いましたが、そんな施設が娑婆の新宿区四谷にありましたかね?」
「おや、ありませんでしたか?」
補佐官筆頭が拙生にひょいと眉を上げて見せるのでありました。
「多分、なかったように思いますが」
「渋谷公会堂でしたかな、そうすると」
「渋谷公会堂では落語はやらないでしょう」
「ああ、そうですか。なにせ前の事で、その辺はあやふやにしか覚えておりません」
「いやまあ、ひょっとして何処か別の処に、四谷公会堂と云う名前の施設が在るのかも知れませんがね。例えば東京の府中市にも四谷と云う地名がありますからね」
「私は娑婆の事情には疎いもので、施設名が間違っていたらご容赦ください」
補佐官筆頭はそう云って拙生にお辞儀するのでありました。
「いやね、態々、四谷公会堂、なんと仰ったのは、実は、東海道四谷怪談、まあ、公会堂四谷ワイ談、となりそうですが、兎に角そう云う地口をなんとか成立させるための、些か無理矢理の言葉のふり当ての意図を隠して仰ったのではないのですかね? ちょいとそう勘繰ったものですから、無粋は重々承知の上で、敢えてお聞きいたしますがね」
「何の事でしょうか?」
補佐官筆頭は全くクールにそう云って、惚けた顔をするのでありました。
「いやまあ、何でもないと云えば、何でもありませんけど。・・・」
拙生は呟いて補佐官筆頭から目を逸らすのでありました。
「お主がその大岩さんとやらと面接した折、他には誰ぞおらんかったかいの?」
閻魔大王官が拙生の言葉が終わるのを待って、補佐官筆頭に訊くのでありました。
「ええと、どう云う技術部門かはもう失念して仕舞いましたが、兎に角、技官をしておられると云う亀屋東西さん、この方は娑婆では鶴屋南北と云うお名前でいらしたそうですが、その方と、後は大岩さんの秘書をしておられると云う、林家彦六さんと云う方が一緒にいらっしゃいました。それに準娑婆省の政府筋の方で、大酒吞太郎さんと云う方です」
「大酒呑太郎かいの」
閻魔大王官がそう名前を復唱して、数度頷くのでありました。
「大王官殿はその方をご存知で?」
「おう、知っておるわい。そいつは昔、この閻魔庁でワシの同僚じゃった男じゃ」
「閻魔庁で同僚だった方?」
「そうじゃ」
「大酒呑太郎さんは、昔は地獄省にいらしたのですか?」
「そうじゃな。なかなか優秀なヤツで、ワシの出世競争の好敵手じゃったわい」
「それがなんで、現在は準娑婆省にいらっしゃるのでしょうか?」
補佐官が後ろから身を乗り出して、閻魔大王官の横に顔を近づけるのでありました。
(続)
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