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もうじやのたわむれ 109 [もうじやのたわむれ 4 創作]

 それはさて置くとして、極楽省が、往生海と云う広大な球面を一周する経度線のような河川で地獄省と区切られ、地獄省と準娑婆省の間はその往生海北部から発して南部に至る半径状の三途の川が国境、いや違った、省境となっていて、準娑婆省と極楽省の間にはまた球面をぐるっと回ってきた往生海が横たわっていると云う、こちらの世界全体の地図、いや地球儀のようなものを拙生は頭の中に描くのでありました。矢張り『我々は宇宙人だ』の法則によって、こちらの世界も娑婆同様に、球体の表面で営まれているようであります。
 と云う事はこちらも広大な宇宙の、無数にある銀河団の中の一つの銀河、その銀河中の太陽系の中にある一つの惑星と云う事でありましょう。地球の置かれている環境と同じであります。いや、宇宙とか銀河とか太陽系とか惑星とか地球とか、そう云う名称ではないかも知れませんが、兎に角、状況は同じのようであります。ただこちらは、娑婆に生きていた人間が皆でやって来て、人間より約十倍の寿命を有する霊となって住んでいるわけでありますから、地球よりはもっと大きな惑星でなければ収容出来ないかもしれませんが。
「こちらの世が表面で展開されているところの、球体の名前は、なんと云うのでしょうか? 娑婆の場合、それを地球なんと呼んでおりましたが。」
「それは天球と呼ばれておる」
「連休、ですか?」
「天球だ」
「ああ、天球ね。なんか宇宙そのものの呼称みたいですね。まあ、それは仮想の球面でしかありませんが。しかしなんとなく、紛らわしい名前がついているのですね」
「紛らわしくはない。こちらでは初めからそう呼んでいるのだからな」
「ああ、それはそうですね。娑婆から来たばかりの私には紛らわしいですが、こちらにいらっしゃる皆さんにとっては、特に紛らわしくはないか」
 拙生は頭を掻くのでありました。
「太古の昔に於いては、万物は地面から生えてくると考えられていたから、産球、とも呼ばれておった事がある。今も時々そう呼ばれる場合もある」
「サンキュー、ですか?」
「いや違う。産球だ。一々そう云った鬱陶しい冗談を云わないで宜しい」
 拙生は叱られるのでありました。
「しかし、話しはちょいと脇に逸れますが、こちらの世には河川ばっかりあって、海と云うものがないと云うのが、実は私には驚きです。審問室でもちらとそう思ったのですが、その時は審問官さんにも記録官さんにも聞きそびれて仕舞いましたがね」
「海は必要がないから、こちらの世には存在しないのだ」
「海は生命の発生する褥なのですがね」
「こちらでは生命は発生する必要がない」
「ああそうか。あらゆる向こうの世の生命が、むこうを引き払ってやって来ているんだから、こちらで独自に発生して進化する生命体は必要ないと云う按配だ」
「その通りである」
(続)
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