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もうじやのたわむれ 108 [もうじやのたわむれ 4 創作]

「私は繰り言を云っているのではないし、話しの細部に引っかかっているのでもなくて、素朴な疑問を呈しているだけですよ」
「なにが、素朴な疑問だ。こちらにしてみれば、間抜けな疑問だ、そんなもの」
 拙生はそのお地蔵さんの言葉にムカッとくるのでありました。お地蔵さんから外方を向くために顔を横に回すと、閻魔大王官が目に入るのでありました。
 閻魔大王官は無造作に顎に二本指を当てて、薄目を開けてこちらを見ているのでありました。この顎に当てた二本指は、能く々々見れば、ピースサインになっているようでありました。屹度間違いなく、拙生に秘かに送るピースサインに違いありません。ここでも閻魔大王官は拙生に頑張れと、激励を送ってくれているのでありましょう。拙生はその激励のお返しに、閻魔大王官に向かってニンマリ笑い顔をして見せるのでありました。すると閻魔大王官も、同じようにニンマリと愛嬌たっぷりに笑い返すのでありました。
「まあ、いいや」
 拙生はそう云いながら、またお地蔵さんの方へ顔を戻すのでありました。「ところで極楽省と地獄省の境界はどうなっているのです?」
「極楽省の東の際には真っ直ぐ南北に広大な河が流れておる。この河は往生海と云う名前があって、その川幅のセンターラインが極楽省と地獄省の省境となる。お前さんはこちらの世に来る時三途の川を渡って来たと思うが、その往生海は三途の川の川幅の百二十倍の広さがある。ちなみに往生海と云うが、それは海ではなくてあくまでも河だ」
「してみると、その往生海の向こう岸と云うのが、地獄省の、北が合衆群地方で南が無休地方となるのでしょうね屹度」
 拙生は審問室で審問官が描いてくれた、手描きの地獄省の省界地図を思い浮かべているのでありました。地獄省の西端域は合衆群地方と無休地方であったはずであります。
「その通りである」
「西の端はどうなっているのですか?」
「西の端も往生海が省境である。往生海は経度線に沿ってぐるっと円環しておる」
「経度線ですか。娑婆の、地球儀の経度線みたいになっているわけですか?」
「そうである。往生海で区切られたその球面の半分が極楽省である」
「その往生海の向こう側は?」
「そこは準娑婆省となる」
「極楽省は東を地獄省に、西を準娑婆省に接しているのですね?」
「地理的にはそうなる。しかし極楽省は準娑婆省とは省交を持たないし、一切の交流を断っておる。上品で高貴な極楽省は、あんな胡散臭い低劣な省とはつきあわないのだ」
「省交、と云うのは、国交、ですね、娑婆で云えば?」
「正解である」
 お地蔵さんは厳めしくそう云って、愛想のピースサインもなにもしないのでありました。拙生は審問室にいた審問官と記録官が、またも恋しくなるのでありました。このお地蔵さんの愛想のなさと云ったら、一体全体どう云うつもりなのでありましょうか。
(続)
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