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もうじやのたわむれ 60 [もうじやのたわむれ 2 創作]

「正解!」
 審問官はボールペンをテーブルの上に置くと、愛想笑いながら揉み手をして、その手で徐にピースサインを作るのでありました。
「全くの当てずっぽうですが、ひょっとしたらそこには、娑婆でロシアに暮らしていた方とかが多くいらっしゃいませんか?」
 拙生はそう問うのでありました。
「ほう、それも正解です。よくお判りになりましたね?」
「いやまあ、なんとなく、そんな感じかなあと。・・・」
「まあしかしここも、向こうの世でロシアにいた方々だけではなくて、色んな処で暮らしていた亡者の方々が住まれています。アメリカ合衆国にいらした方も、中国にいらした方も、ドイツにいらした方も、バルト三国にいらした方も。それにウクライナやカザフスタンの方々、ポーランド、チェコ、ルーマニアなんかの東欧諸国の方々も、チェチェン地方におられた方だっていらっしゃいますよ。勿論、日本にいらした方も」
「日本にいらした方と云うのは、若しかして因縁から、娑婆でかなり以前に北方領土で暮らされていたような方、とかが多いのではないでしょうね?」
「いやあ、別にそんなことはありませんなあ。北海道方面の方ばかりではなくて、東北の方も、関東の方も、関西の方も、四国の方も、偏りなくいらっしゃいますよ」
「ああ、そうですか」
 拙生は何故か拍子抜けするのでありましたが、これは未だに濃厚に残っている拙生の余計な娑婆っ気、と云うか、俗っ気、と云うか、不謹慎さ、がそうさせるのでありましょう。
「娑婆の黒縄地獄は正しくは、ハラショー地方、と云います。ロシアの方が多いせいでしょうか、昔からそう云う地名で呼ばれておりましたな。そこにある都市は霊工的ですが、地方の名称は自然発生的で、近年目出度く、それが正式な地方名として承認されました」
「黒縄地獄がハラショー地方ですか。それはなんかちょっと、如何にも無理矢理ですね」
 拙生は目を細めて、体を斜にして審問官を見るのでありました。
「無理矢理? 何が?」
 審問官は拙生を見据えながら、無表情に訊ねるのでありました。
「いや、こっちの事です。・・・」
「これは別に私がこじつけをしているのではなくて、本当にそうなんですから仕方ありません。一応、念を押しておきますが」
 審問官は無表情の儘、淡々と云うのでありました。「娑婆の方に漏れた情報が間違っていたのです。なんと云ってもこちらが本場なんですからね。まあ、最初に間違った情報に接して仕舞うと、後で聞いた本当の事の方が、如何にも浮ついた嘘に聞こえて仕舞うのかも知れませんが、しかし冷静に筋道を正して考えれば、納得出来る事柄ですよ」
「ご教導恐れ入ります」
 拙生は頭を掻くのでありました。
「ハラショー地方の知事さんは、・・・」
(続)
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