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もうじやのたわむれ 61 [もうじやのたわむれ 3 創作]

 審問官が話しの先を再開するのでありました。
「ひょっとしたらスターリンさん、とか云うお名前の方では?」
 またもや拙生の不謹慎が、我が口をどうしても開かせるのでありました。
「いや、その方は確かに、地獄省に住霊登録されていると聞き及んでおりますが、しかしハラショー地方の知事さんは、その方ではありません」
 審問官が云うのでありました。「今は確かイヴァンさん、ではなかったかな」
「イヴァン雷帝さん、ですか?」
「おや、イヴァンさんの渾名をご存知で?」
「ええ。高校生の時、世界史の授業で習いましたから」
「ああ成程ね。イヴァンさんは娑婆にいる時には、ロシア皇帝でいらしたとか伺ったことがありますが、日本にいらした貴方が、しかも全く時代が違うと云うのに、そうやってご存知なんだから、かなり有名人だったのですね向こうでは」
「ま、そうですね。イヴァンさんは、矢張りこちらでも暴君でいらっしゃるのですか?」
「いやあ、温厚篤実でお優しい方ですし、政治も民主的で、地方霊の云う事をよくお聞きになって、なかなか評判のよろしい知事さんのようですよ」
 その辺は娑婆とは少し事情が違うようでありました。
「確認しますが、地方霊、は、地方民、それに、民主的、と云うのは、民主化、と同じで人霊置換の原則から外れる例外で、その儘、民主的、と云って良かったのですよね、確か?」
「はい、正解!」
 審問官が愛想笑いながらゆっくりピースサインを出して、それを首と一緒に左右にリズミカルにふるのでありました。拙生はなんとなく上方落語の、桂枝雀師匠の高座での仕草を思い出しているのでありました。
「考えたら、こちらの平均寿命からすれば、スターリンさんは未だヒヨッコですものね」
 拙生の言葉が終わると、審問官は枝雀師匠のような仕草を止めるのでありました。
「ええと、地獄省の地方紹介の続きですが、西の方には、ここから近い順に、大旅館地方、強艦地方、合衆群地方とあります」
「大叫喚地獄、叫喚地獄、衆合地獄と云う順番ですね?」
 こうなると、記録官の有難い『逆さ牡丹』のようなもじり、なんかよりも余程キツい言葉のこじつけのようだと、拙生は秘かに思うのでありましたが、しかし審問官の気を害さないためにそれは云わないでおくのでありました。
「大旅館地方は峻嶮な山岳と広大な砂漠の広がる地域で、ハラショー地方と違ってこちらの方は、河川の流域とか湖沼のある処に自然発生的に街が形成されて、それが次第に発展して大きな都市になったと云う感じですかな。そう云った都市を結ぶ道路があって、これを我々はコットン・ロード、綿の道、等と呼び倣わしております。この道も自然発生的で、古代から交易をする霊達が隊商を組んで行き来したと云う道です。ですから昔から、町々にはそう云う霊のための大規模な旅籠が多くありまして、またこの旅籠が独特の建築様式で建てられていまして、それに因んで、大旅館地方、と云う魅力的な地名がついたのです」
(続)
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