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もうじやのたわむれ 33 [もうじやのたわむれ 2 創作]

「ははあ、成程」
 審問官はそれまで拙生がしていたような納得顔をして見せるのでありました。「ご高説を賜りまして、まことに有難うございます。成程々々、そう云うことでしたか」
「いや、この説は戯れ言のようなもので、全く自信がないのですから、そう真顔で感心されると、返って冷や汗を出してたじろいで仕舞いますよ」
 今度は拙生が、大袈裟なさようならの掌の横ふりをして見せるのでありました。
「いやいや、ご謙遜を。卓見だと思います」
「そう云った九州の口調なんかに興味とか好意を持たれるというのは、ひょっとして審問官さんのご先祖が九州の出身と云う事なのでしょうか?」
 拙生は話題を変えるのでありました。
「いやいや、そうではありません。鬼に九州出身も、東北出身も、信州出身もありません」
「ああ、そうでしょうね。そう云えばそうか」
「まあ、かなり遡った祖先が、後に九州と呼ばれる島の出身だったかも知れませんがね」
「おや、と云う事は矢張り、鬼の方々も、ずうっと以前は向こうの世、つまり娑婆にいらしたと云うことなのでしょうか?」
「まあ、神話時代の、遠い我々の祖先は間違いなく娑婆にいたのです。しかしそれは七百世代以上前の話しになるのです。私なんかの世代になると、もうこちらの霊になり切っています。まあ、娑婆でも三代続けば江戸っ子になるなんと云うでしょう。京都は十代ですか。私なんか判るだけでも三百世代前のご先祖は、既にこちらにいましたから、もう、純粋な地獄っ子と云って良いでしょうね」
「ああ、そうなんですか」
「別にここで地獄っ子を気取っても仕様がないですが」
 審問官は無表情に云いながらも、なんとなく自慢気な色を顔に漂わせるのでありました。
「その、遠いご先祖様は矢張り娑婆でも、鬼をなさっていたのでしょうか?」
「いやいや、そんなわけはありません。前にも云ったように、娑婆で鬼をやっているのは準娑婆省の鬼の連中なのですから」
「ああ、そうでしたね」
「ウチのご先祖様は、多分人間だったのです」
「ほう。じゃあ、こちらへいらした当時は、私と同じ亡者でいらしたということですか?」
「そうなりますね。同じです」
「すると、何時から鬼になられたのでしょうか?」
「まあ、三百世代以上前からであることは間違いありません」
「すると遡る事が可能な最初のご先祖様から、もう既に押しも押されもしない、立派な鬼でいらしたと云うことになるわけですね?」
「まあ、立派な鬼、と云う表現の妥当性は別として、純正の鬼でありました」
「それは、三百世代よりももっと以前の祖先の方が、突然変異かなにかで、一般亡者から鬼となられたのでしょうかね?」
(続)
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