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もうじやのたわむれ 10 [もうじやのたわむれ 1 創作]

 審問官は続けるのでありました。「最初の宋帝王審理所で罪科充分と裁かれた場合、もうその時点で畜生道とか餓鬼道とかの準地獄行きや、各本格地獄行きが決定なのです。そうなればもうその先の四つの審理を受ける必要は、なくなって仕舞うのです」
「ははあ、成程」
 拙生が相の手をいれるのでありました。
「で、我々の先祖の赤鬼、青鬼ですがね」
 審問官がそこで背凭れから上体を離して、拙生の方に身を近づけるのでありました。「閻魔大王審理所で審理進行補佐と云う仕事をしておりました。閻魔大王官の助手です」
「ああ、よく閻魔大王の横で怖い顔をして、イボイボのついた鉄の棒みたいなものを持って、虎のパンツかなんか穿いて立っているヤツ、いや、方、ですね?」
「虎のパンツは、三途の川の向こう岸にいる準娑婆省気象統括庁の雷雨担当官の鬼が穿いているもので、あれはあの連中の制服なのです。装備品もウチの祖先の鉄棒みたいな武器ではなく、向こうは音響装置で、太鼓が幾つかつけられた丸い輪っかと撥ですしね。ウチの先祖は、普通の布を腰に纏っておりました。こちらの方は制服と云うものが決められおりませんで、華美に走らないならと云う条件がつきますが、カジュアルが許されていたようです。こちらには些か自由の気風があったのでしょうかな。同じ鬼でも、違うのです」
「こちらは自由な気風ですか。ふうん」
 拙生は顎を撫でながら感心するように何度か頷いて見せるのでありました。
「因みに川向うの雷雨担当官の鬼達と私共の先祖の鬼は、風体は似ておりますが全く違う族なのです。大本の祖先は学術的には同じなのかも知れませんがね。向こうの世界で云うと中国人と日本人の違いと云うのか、ま、そう云った感じですかな。頭蓋骨の形状とか耳垢の硬軟なんぞも微妙に違っておりますよ」
「民族が違うわけですね?」
「まあ、我々に民族と云う言葉は不適切で、云ってみれば霊族となりますかな。しかし、そう云う風な区別と近似していると思って頂いて結構ですかな」
「気象統括局は三途の川の向こう岸にありますから、こちら地獄省とはまったく別の、準娑婆省と云う処が統括していて、こちらとは一切交流もありません。全く別の国家と云うのか、別社会と云うべきでしょうかね」
 これは記録官の補足説明でありました。
「いやあ、向こうでは鬼と云えばなんでもかんでも鬼一般として理解していたのですが、実際は様々あるものなのですね。勉強になりました」
 拙生はそう云ってゆっくり数度顎を上下させた後、軽く頭を下げるのでありました。釣られて審問官も拙生にお辞儀を返すのでありました。
「いやまあ、娑婆での認識はそう云ったものでしょう」
 審問官がはっはっはと笑うのでありました。
「しかしお見受けしたところお二方は、私のイメージする鬼の風体とは全く違って、私と同じようなごく普通のお姿をなさっていますね。それに態度も温和そうだし」
(続)
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