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もうじやのたわむれ 11 [もうじやのたわむれ 1 創作]

 拙生が云うのでありました。
「旧態では色々問題が多くて、そういうのはとっくに廃止されたのです。ま、極楽省と地獄省の史上二回目の大戦みたいなものがありましてね、その時地獄省が負けて、進駐してきた極楽省の軍の命令に依り、こちらの制度も大いに民主化されたと云うのが実情です」
「極楽省と地獄省の大戦?」
「ええ。省とは云ってもそれは全く別の、云ってみれば国家のようなものですから、時に省益が衝突する事もあるのです。で、ずっと昔に戦争があって、それを第一次省界大戦、それにやや昔の、地獄省が負けた戦争を第二次省界大戦と呼んでおります」
「で、第二次省界大戦の敗戦省たる地獄省の諸制度が、終戦後、戦勝省たる極楽省の進駐軍に民主化されたと云うのですね。どこかで聞いたような話しだな」
 拙生はそう云って顎を撫でながら天井を見るのでありました。
「もう、戦前の旧制度は諸悪の根源であると云ったキャンペーンによって、我々地獄省は一夜明けると、全く反対の思想を受け入れる事を強いられたのです。昨日までの、亡者共は徹底的に締めあげて、その亡者が向こうで重ねた悪行を洗い浚い論って、塗炭の苦しみを与えた方が良いのだとされてきた思想が、戦後には、亡者様にも基本的霊権と云うものがあって、それは誰もが絶対犯すことの出来ない基本権と云う事になったのです」
「で、その民主化の成果として、我々も昔のご先祖様のような、恐怖を前面に押し出す風体ではいかんと云うことで、このような小ざっぱりしたスーツを着用する事になったわけです。亡者様に無用な心理的負担を与えないために」
 記録官が審問官の言葉を受けてそう説明するのでありました。
「頭の角もなくなったのですか?」
 拙生は極力失礼の印象を与えないように控えめな所作で、自分の頭の上に人差し指二本を立てながらそう問うのでありました。
「ああ、我々の角は出し入れ自由になっていまして、昔の鬼は高圧的な審理の手前、のべつ威嚇のために出していたのですが、今は緊急時以外頭の中に引っこんでいます。あんなのが四六時中出ていたら、迂闊に髪もセット出来ませんしね。昔の鬼だって仕事中は出していても、家に帰ると大体は引こめてていたそうです。家族が角突きあわせて生活すると云うのも殺伐としていて陰鬱で、なんか気が滅入るじゃありませんか」
 審問官はそう云いながら徐に自分の頭に掌を置いて、笑いながらそれで二三回髪の毛を軽く叩いて見せるのでありました。
「あれが四六時中出ていると、風呂で頭を洗うのも不自由だし、それにプライベートで色んな帽子なんかも楽しめなくなりますし」
 記録官も掌を頭上でゆっくり何度かバウンドさせながら、そう云い足すのでありました。
「ああ、成程。それと、鬼は、いや、鬼の方々は縮れ毛と云うのか、生まれつきカールの利いた頭髪と云う私のイメージだったのですが、お見受けしたところお二人共もストレートにしておられますね。それは態とストレートパーマかなんかを当てたりとか?」
 拙生は審問官の頭髪を見ながら聞くのでありました。
(続)
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