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大きな栗の木の下で 53 [大きな栗の木の下で 2 創作]

「鳥って、反省するの?」
 沙代子さんが聞くのでありました。
「そりゃするさ。俺みたいなのも時々反省するくらいだからから」
 御船さんがそう云うと沙代子さんは口に手を当てて笑うのでありました。
「御船君、鳥以下?」
「そう。実はね。今まで一生懸命隠していたんだけど」
 沙代子さんが今度は声を立てて笑うのでありました。その沙代子さんの笑い声にも驚かずに、鳥は木蔭の中を歩き回るのでありました。しかしさすがに、一定以上は距離をつめてはこないのでありましたが。
「あたしは、鳥以上ね」
 沙代子さんが云うのでありました。「だってあたし、あの鳥よりもっともっと、反省ばかりしているもの。ま、反省ばかりって云うか、悔やんでばかりって云うか。同じような失敗を繰り返して、その都度反省して、また相変わらず同じ失敗して。・・・」
「それはつまり、実は反省していないと云うことだろう?」
「そう、結局、反省しているふりをしているだけかもね」
 沙代子さんはそう云って海から自分の膝頭に視線を移すのでありましたが、その口元には自嘲的な笑みが浮かんでいるように見えるのでありました。
「じゃあ、本当は、鳥以下の俺以下じゃんか」
 御船さんはそう頓狂な声で云って、大袈裟に顎を上げて見せるのでありました。
「ああそうか。面目ない」
 沙代子さんが御船さんを見て頭を掻く真似をするのでありました。
「俺も、ほんの時々だけど反省はするわけだ。でも、或る時、大学時代だけど、考えたね。なまじ反省なんかするから、俺はちっとも合気道が上手くならないんだってさ。反省する暇があったら、嫌って云う程同じ失敗を繰り返した方が、結局は技なんかも身に染みつくんじゃないかなってさ。だから俺は反省しないことにしたんだ。でもなかなか反省しないと云うのは出来ないものでさ、ついつい意志の弱い俺としては、まあほんの時々だけど反省なんと云う真似を仕出かして仕舞うわけだ。ああ、これではいかんと思うんだけど、またこれが反省なわけだ」
「なんかややこしい話になってきたわね」
「反省なんかするから、話もややこしくなる。俺は将来、あいつはちっとも反省しないヤツだ、なんて人様に云われるような一廉の人物になりたいと願っているわけだ。まあ、あの鳥には申しわけないんだけどさ」
「ふうん」
 沙代子さんが簡単にそう返事するのでありましたが、それは御船さんの今ものしている冗談が、妙にまわりくどくなってきたのに少々辟易したからなのでありましょうか。
「まあ、なんだ、沙代子はつまらない反省なんかしないで、これからもあの鳥以下の俺以下の了見でずうっと頑張れ。そう云うキャラクターも得難いものがあるぞ」
(続)
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