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枯葉の髪飾りCCⅩⅩⅨ [枯葉の髪飾り 8 創作]

 佐世保へ帰って暫く経ってから、突然拙生の実家に吉岡佳世のお兄さんから電話が来たのでありました。母親に吉岡さんと云う人から電話だと云われて、拙生が佐世保に帰っていることを彼女の家の人は知らない筈であるのにと不思議に思いながら、玄関の電話機の傍に行って拙生は受話器を取り上げるのでありました。
「ああ、やっぱり帰って来とったとばいね」
 吉岡佳世のお兄さんはそう云って電話の向こうで少し笑うのでありました。
「なんで判ったとですか?」
「ここのところ寺に新しか花の供えてあって、ひょっとしたら井渕君が来てくれとるとやなかやろうかて、ウチのお袋さんの云わすけん、ちょっと試しに電話してみたとくさ」
「ああ、そうですか」
 拙生も少し笑い返すのでありました。
「まあだ冬休みでもなかとに、なんでこがん時期に佐世保に居るとや?」
「いやあ、大学のロックアウトになってですねえ。なんでも来年の入試も危なかて云うことけん、そんなら東京に居っても仕方なかて思うて、帰って来たとです」
「ふうん。それで、帰って来とって大丈夫とや?」
「はい。なんか動きのあったら、友達の連絡ばしてくれることになっとるけん」
「成程ね。何処も同じ、か」
 その後に少し言葉が途切れるのでありました。
「いや、オイもそうばってん、ひょっとしたらお兄さんも今佐世保に居るとでしょう?」
 拙生はそう聞くのでありました。
「うん、家から電話しとると。ウチの大学もロックアウトばい」
「やっぱい学費値上げ反対闘争、ですか?」
「うん。韓国のこととか、原子力船とか、東京のビル爆破とか、色々あるばってん、まあ学費値上げ反対が一番の理由かね」
「ああそうですか。京都の方も、騒がしかとばいねえ」
「もう騒がしか騒がしか。学費値上げ反対も、闘争方針で新左翼と既成左翼とか、新左翼のセクト同士とかでもいがみおうとるけん、なんか話しの余計ややこしゅうなっとる」
 彼女のお兄さんはそう云った後少し間を取ってから続けるのでありました。「いや、そがんことより、今日電話したとは、もし井渕君が帰って来とるとなら、一遍昼飯かなんかば食いがてら、ウチに寄ってくれんかねて思うてくさ」
「ああ、そうですか」
「どがんや?」
「はい、オイは別に暇にしとるけん大丈夫とですけど、迷惑やなかやろうか?」
「そがんことのあるもんか。未だ佳世のことば気にかけて貰うて、寺にも参ってくれとるとけんが、こっちの方こそお礼ばせんばならんと。井渕君に来て貰いたかとは、ウチの親父さんとお袋さんの意向でもあるけんがね。どがんや?」
 彼女のお兄さんはどがんやを繰り返して、拙生の返事を待つように黙るのでありました。
(続)
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