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枯葉の髪飾りCCⅩⅩⅩ [枯葉の髪飾り 8 創作]

 拙生が吉岡佳世の家を訪ねたのは、お兄さんからどがんやの電話を貰った二日後でありました。それは拙生がその日を希望したのではなくて、お兄さんが調整してくれたのでありました。お兄さんは拙生に気を遣って、お土産なんかは買ってこなくていいからとも云い添えてくれるのでありましたが、昼食を馳走してくれると云うのに厚意に甘えて手ぶらで行くのも気が引けるので、どうせその日の午前中も寺の納骨壇に行く予定でありましたから、ことの序でにまたケーキでも買っていこうと拙生は思うのでありました。
 約束の日に吉岡佳世の家の玄関では彼女のお父さんとお母さん、それにお兄さんが揃って拙生を出迎えてくれるのでありました。平日だと云うのにお父さんまで家に居るのはどうした事だろうと、拙生は挨拶に頭を下げながら思うのでありました。
「なあんも、買うてこんでよかて云うたとに」
 拙生がお土産のケーキを差し出すと、お兄さんが困ったような顔をしながらそれを受け取るのでありました。
「なんか何時も悪かねえ、こがんことして貰うて」
 お母さんが云うのでありましたが、それは訪れる度に歓待して貰っているこちらの云うべきことだと、拙生は手を横にふりながら返すのでありました。
「今日は仕事はお休みですか?」
 居間に通された拙生は座卓の座布団に促されるまま座った後、拙生の対面に座を取ったお父さんに聞くのでありました。
「うん、実はちょっと前に会社は辞めたんだよ」
「え、辞められたとですか?」
「うん、まあ、これを機に岡山に戻ろうと思ってね」
「親父さんも大分ショックやったみたいやからね、今度のことでは」
 拙生の横の席についたお兄さんがそう云うのでありました。その言葉にお父さんは少し俯いてなんとなく口元を笑うように動かすのでありましたが、その笑いは弱々しくて悲しみを誤魔化すための笑いのようでもあり、やや自嘲の気持ちの籠められた笑いのようでもありました。その様子から拙生は最愛の娘を失ったお父さんの悲しみが、到底癒えないことを察するのでありました。
「岡山で、前に云っとられた実家の方の仕事ばされるとですか?」
「うん、何時でも受け入れ可能だと向こうも云ってくれているから、ちょっと予定よりは早くなったけど、心機一転そっちをやってみることにしたんだよ。こっちでずっと抱えていた仕事もなんとなく目鼻がついたし、このところの船舶不況で仕事も激減しているし、人員削減の話も現実味が出てきたし、丁度頃あいかなとも思ってねえ」
「何時、帰られるとですか、岡山には?」
「出来たら年内に帰ろうかと思っているんだよ。クリスマスの頃とか。まあ、慌ただしいけどね。新しい年は、あっちで迎えたいと思ってね」
 お父さんはそう云ってから、拙生を何処か申しわけなさそうな顔で見るのでありました。拙生はそのお父さんの目から逃れるように俯くのでありました。
(続)
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