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枯葉の髪飾りCⅩⅩⅧ [枯葉の髪飾り 5 創作]

 謝恩会の帰りに拙生は吉岡佳世の家に寄るのでありました。玄関で迎えてくれた吉岡佳世と彼女のお母さんは、卒業おめでとうと云って二人揃って拙生に拍手を送ってくれるのでありました。
「卒業証書、見せて」
 吉岡佳世が居間に通った拙生にそう強請ります。拙生は深草色の紙筒の蓋を開けて中の丸まった卒業証書を取り出して彼女に渡すのでありました。
「へえ、結構立派な証書たい」
 彼女のお母さんが横から覗きこみながらそう云います。その後立って台所の方へ行くのは拙生に茶を出すためでありましょう。
「卒業アルバムも貰うてきたけど、見るか?」
「うん、見せて」
「お前も何枚かに写っとるぞ」
 そう云いながら拙生はカバンから厚手の卒業アルバムを取り出すのでありました。拙生と吉岡佳世は頭を寄せ合って、あまり良い画質ではないもののそこに写っている拙生と彼女の姿を探しながらそれに見入るのでありました。
「出過ぎた真似て思うたばってん、一応話の序でて云う感じで、来年お前のことば宜しゅう頼むて、謝恩会の時坂下先生に云うたら、坂下先生がオイの肩ば叩いて、万事任せて、安心して東京に行けて云わしたぞ」
 拙生は卒業アルバムに目を落としながら彼女にそんな報告をするのでありました。
「あたしも来年卒業して、卒業証書とアルバムば貰ったら、東京でそれば居渕君に見せるね。あたしも来年、東京の大学生になれるように、頑張るから」
「うん、楽しみにしとる。ばってんがぞ、来年の卒業式の頃は、春休みでオイも多分佐世保に帰って来とるて思うけど」
「ああそうか。そうよね。そしたら来年の卒業式の日に何処かで会って、卒業証書とアルバムば見せることにしようか」
「そう云うことなら、病院裏の公園で見せてくれ。そこで待ち合わせして」
 拙生と彼女はもう来年の彼女の卒業式後に公園で逢う約束などをしているのでありましたが、これはあまりに気が早いと云うものでありましょう。
「隅田も安田も島田も、卒業した後も時々お前に連絡とか入れて、来年のお前の入試に力になる積りでおるて云いよったぞ。まあ、オイの邪魔にならん程度に、とも云いよったけどさ」
「うん。皆がそうやって、まだあたしのことば気にかけてくれるとは、とても嬉しかし、感謝してると。三年生になって、本当に良い人達にめぐり逢ったて思うよ、あたし」
 吉岡佳世は拙生を見つめながらしみじみとそう云うのでありました。
 拙生は夕飯前に彼女の家を後にするのでありました。明後日は久しぶりの吉岡佳世との二人きりのデートであります。楽しみで拙生は気持ちが弾むのでありました。尤も、どうせ明日も拙生は彼女の家にお邪魔するに決まっているのでありますが。
(続)
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