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枯葉の髪飾りLⅩⅧ [枯葉の髪飾り 3 創作]

 秋が深まると吉岡佳世は風邪を引かないための用心もあって、学校に出てくるのは週の内半分程になっているのでありました。別に体調が悪くなったためではなくて、本当に手術を間近に控えた配慮であると彼女は強調するのでありました。心臓及び肺や気管支への負担を極力抑えるようにとの病院からの指示は実際にあるのでしょう。しかし拙生には取り越し苦労であることを願うのみではありましたが、なんとなく彼女の元気が夏の頃に比べると、次第に委縮してきているように感じられるのでありました。
 吉岡佳世が学校へ出てこようと休もうと拙生は必ず彼女に毎日逢うのでありましたが、しかしやはり彼女が登校してきた日はどこか心躍るのでありました。彼女に風邪を引かせないようにと気を遣って、周囲に咳きこんだり鼻水をすすったりする音が聞こえると、拙生はそちらに敵意を含んだ目を向けたりするのでありましたが、自分が鼻詰まりなどに陥るとこれはもう非常に困惑するのでありました。拙生に近づいてこようとする吉岡佳世を手で制して、風邪の兆候が自分にあることを彼女に告げ一定の距離を保とうとするのでありましが、これは切ない所作でありました。それでも近づこうとする彼女から逃げるため、拙生は席を立って彼女の接近を回避しようとします。
「ダメて。オイは風邪ば引いとるごたるけん、うつるぞ」
 拙生はそう云いながら片手を横に懸命に振ります。
「大丈夫よ。そがん神経質にならんでも」
 吉岡佳世は笑ってそんな大胆なことを云うのであります。
「いやいや、ダメて。咳も出そうやし」
 それでも彼女はまるで拙生の必死さを面白がるように接近を試みます。拙生は彼女が進めた歩の同じ分後退します。その光景を見ていた隅田が拙生に声をかけるのでありました。
「井渕、うろたえるな。インフルエンザとかウイルス性の風邪じゃなかなら、うつりはせんて。どうせお前のは、寝像の悪かったための寝冷えかなんかやろうから心配なか。風邪に託けて、いちゃいちゃ見せつけてくれんでもよかて」
「オイは本気で吉岡ば心配しとるとぞ」
 拙生がどんなに真面目な顔でそう自分の行動を説明しようと、隅田はヘラヘラと笑って取りあわないのでありました。当の吉岡佳世も隅田と同じ笑いを顔に宿して、尚更近くに寄って来ようとして拙生を困らせるのでありました。
 比較的暖かい日で彼女が学校に出てきた日は、偶に市民病院裏の公園に学校帰りに二人で出かけたりしました。拙生は彼女の体調がとても心配ではありましたが、彼女から誘われるとなかなか断れないのでありました。
 十一月も下旬になると市民病院裏の公園の木々も、なんとなく冬に向かって身を縮こめ始めているように見えるのでありました。椿や樅などの常緑樹が殆どでありましたが、所々に落葉樹があってあのベンチ横の銀杏の木も繁った葉を黄色く変色させて、夏とはまるで違った乾いた葉擦れの音を立てているのでありました。ベンチの上にもその周辺の地面にも落ちた黄色い枯葉が散らばって、それは風に忙しなく吹き弄ばれながら一所へ身を寄せあうように集まろうとしているのでありました。
(続)
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