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あなたのとりこ 679 [あなたのとりこ 23 創作]

 袁満さんは溜息を吐いて項垂れるのでありました。しかし袁満さんの事だから、全総連からそう云う依頼がある以上、律義に出向く心算でいるのでありましょう。しかし那間裕子女史はすげなく袖にするのかと思いきや、袁満さんだけに嫌な役を押し付けるのは気が引けるのか、散々悪態を吐きながらも一緒に出向く事に同意するのでありました。
「何なら俺達も一緒に行きましょうか?」
 均目さんが頑治さんの方をチラと見て目で同意を確認してから、袁満さんに云うのでありました。頑治さんも均目さんとしても、袁満さんと那間裕子女史にだけ嫌な役回りをさせる事に、どこか気後れを感じたためでありますか。
「いや、俺と那間さんでと云う向うの依頼だから、二人で行ってくるよ。ちょっとした確認だけと云う話しだから、至って事務的にこちらも対応した方が無難じゃないかな。またここで四人揃って出向くとなると、返って妙に大袈裟な気がするし」
「それもそうですね」
 均目さんは納得気に頷くのでありました。「まあ本当に、ちょっとした確認だけで、早々に放免してくれるなら良いですけどね」
「もう俺達の意志は会社を辞めると決まっているんだし、例え向こうが何だかんだと労働争議を持ちかけてきたとしても、断固拒否すれば良いだけの話しだし」
 袁満さんが力強く一回頷くのでありました。しかし至って気の良い袁満さんが向こうの手練手管にうっかり乗せられないとも限らないと、頑治さんはその力強い頷きを見ながら疑うのでありました。横瀬氏は袁満さんなんぞより多分余程抜け目がなく、企み事にかけては大いに長けているでありましょう。依って袁満さんを二進も三進もいかないところに追い詰める術とかは、こう云う仕事柄、実にお手のものでもありましょうし。

 まあしかし、頑治さんのこの思いは杞憂に帰するのでありました。横瀬氏には何やらの企みはなく、本当に会社を辞めて仕舞うのかと聞き質す場面はあったようでありますが、だからと云って四人の決定に強引に立ち入ってくる気はなかったようでありました。
 何かしらの書面にサインやら押印を求められたりする事もなく、ただ日を置いて、もう一度冷静に四人の辞意と組合解散を訊き質すと云う心算で袁満さんと那間裕子女史を呼んだようでありました。袁満さんと那間裕子女史の二人としては些か緊張して出向いたのでありましたが、ちょっと拍子抜けであったようであります。
「結局、雑談で終わったと云う感じかな」
 重荷から解放された袁満さんが感想を述べるのでありました。
「そうね。あれなら態々出向く必要もないみたいな感じだったわよね」
 那間裕子女史も安堵の顔色を浮かべているのでありました。
「執拗に、会社を辞めるなとか、労働争議ともなれば全面的に後援するから徹底的にやれとか、そんな説得はなかったんですね?」
 均目さんが信じられないと云った顔で袁満さんに訊き質すのでありました。
「まあ、こっちとしてもどこか後ろめたかったけど、仕様がない事なんだし」
(続)
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