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あなたのとりこ 150 [あなたのとりこ 5 創作]

「じゃあ、一か月分だったら皆で抗議する事になるかな。つまり抗議するかしないかの分かれ目は一か月以下と云う金額になる訳だな」
 別に態々そうする必要は無いと思われるのでありましたが、山尾主任は上着のポケットから手帳を取り出して念のためかその辺りをメモするのでありました。なかなか律義と云うのか、几帳面で手堅い性格なのでありましょう。
「そうじゃないわよ。二か月分を切ったら抗議すると云うことになるんじゃないの」
 那間裕子女史が慌てて訂正するのでありました。
「ああそうか」
 山尾主任は頷きながら手帳の記述を書き直すのでありましたが、ふと手を止めて那間裕子女史を見るのでありました。「一か月半とかだったら、抗議するんだよね?」
「一か月半も当然抗議よ」
 那間裕子女史は当たり前だと云った口調で応えるのでありました。
「一か月と半分を少し超えてと六分とか七分とかだったら?」
「抗議よ。当然じゃない」
 那間裕子女史は面倒臭そうに眉を顰めるのでありました。「二か月が限界よ」
「今迄の例からして一か月とか一か月半とか云う、ある程度切の好い額はあっても、六分とか七分なんて云う半端な数字は向こうも提示しないんじゃないですか」
 那間裕子女史の横に座っている均目さんが口を挟むのでありました。
「成程ね。それもそうだな。じゃあ、二か月を切ったら抗議、と」
 山尾主任はまた手帳に何やら書き入れるのでありました。その様子を見ながら那間裕子女史はげんなりの溜息を漏らすのを遠慮しないのでありました。

 手帳上で動いていた小振りの鉛筆の動きを止めると、山尾主任は目線を上げてまた皆を見渡しながら次の話しに移ろうとするのでありました。
「じゃあ、抗議の仕方の方に話しを移すけど」
「誰に抗議するんだろう?」
 袁満さんが山尾主任に、と云う風ではなく、誰にともなく問うのでありました。
「そりゃあ当然、先ず土師尾営業部長に、と云う事になるだろうな。実質は別にして一応体裁上は会社の中で社長に次ぐ地位なんだから」
 山尾主任が小振りの鉛筆を弄びながら応えるのでありました。
「片久那制作部長は無視ですか? ボーナスを出すとか出さないとか、その額については片久那制作部長の方がより強く関与している筈なのに」
「無視と云う訳じゃないけど、先ずは土師尾営業部長の方に、と云う事だよ」
「土師尾営業部長に何か云っても暖簾に腕押しか、そうじゃなかったら自分だけが責められていると早飲み込みして、いきなり錯乱して怒り出したら話しにも何もならないんじゃないですかね。細かな、個々に対する支給額とか実際の数字に関しては、あの人は殆どタッチしていなくて、すっかり片久那制作部長に任せ放しでしょうからね」
(続)
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