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お前の番だ! 515 [お前の番だ! 18 創作]

 またもや二人で面倒な事をやらかしてくれたものと、万太郎は大いに苦るのでありましたが、これを黙した儘看過するわけにもいかず是路総士に報告するのでありました。是路総士はやれやれと云った面持ちで、思わず失笑を漏らすのでありました。
「如何取り計らえば良いのでしょう?」
 万太郎は是路総士の眉間の縦皺を見ながら訊くのでありました。
「威治君にも洞甲斐さんにも、全く困ったものだな。・・・」
 是路総士はそう呟いて暫し黙るのでありました。「見過ごす事も出来まい。しかしだからと云って大問題にするのもどんなものかな。どうせ威治君も洞甲斐さんも、それが無責任だと思いも寄らず、到って軽い了見で、常勝流、の名前を使ったのだろうからなあ」
「鳥枝先生と寄敷先生にご相談なさいますか?」
 万太郎は電話機の方を横目に見ながら訊くのでありました。
「いや、御両所と相談するとなると事が些か大袈裟になる。穏便に収められるのならそうしたい。要は看板から、常勝流、の前書きを外して貰えばそれで済む事だ」
 確かに鳥枝範士がこれを知ろうものなら頭頂部から湯気を出すのは必定で、威治前宗家と洞甲斐氏の軽率を詰りに詰りまくるでありましょう。ひょっとしたら二人を呼びつけて激しく叱るだけでは飽き足らず、裁判沙汰なんと云う手段も辞さないかも知れません。
「総士先生が直接威治先生に電話されますか?」
 万太郎はまたも電話機の方に横目を向けるのでありました。
「そうだな、ここは一つ折野、お前に働いて貰おう」
「押忍。承ります」
 万太郎は是路総士に向かって、しかつめ顔でお辞儀するのでありました。
「お前、向こうに出向いて行って、私からの詰責として直接二人に非理を諭せ」
「しかし僕如きの云う事を、あのお二人がお聞きになるでしょうか?」
 万太郎は気後れの表情をして見せるのでありました。
「直接に云うのはお前だが、それはあくまでも私の言葉だ」
「押忍。では総士先生のお言葉を伝達致します」
 万太郎はそう云って畏まって、是路総士がこれからものす伝達すべき言葉を待つのでありました。是路総士が口を閉じた儘で暫し何も発しないのは、その伝達すべき言葉を吟味しているからであろうから、万太郎は身じろぎなく待ち続けるのでありました。
「おい折野、何を怖い顔をして黙りこくっているのだ?」
 沈黙の短い時間の後に是路総士が万太郎に訊くのでありました。思わぬ是路総士のこの言葉に、万太郎は気組みを外されて急に間の抜けた顔になるのでありました。
「ええと、総士先生の、お二人に伝達すべき言葉をお待ちしていたのですが。・・・」
「それもお前に任す。良しなに云ってこい」
「その言葉も、僕が任されるのですか?」
「そうだ。私の意を体する言葉で諄々と諭してこい」
「はあ。・・・」
(続)
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