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お前の番だ! 346 [お前の番だ! 12 創作]

「ご苦労をおかけしますが、よろしくお願い致します」
 長男殿が如何にも申しわけなさそうな顔で云うのでありました。
「いや何、・・・」
 是路総士が立ち上がったので万太郎も倣うのでありました。威治教士は是路総士の態々の足労を労うために玄関まで見送りに立つかと思いきや、そういう気配は一切なく、立ち上がった是路総士と目もあわさないのでありました。
 あゆみとの一件があるために何ともばつが悪いと云う事なのかも知れません。しかしそれにしても無神経だと万太郎は内心憤るのでありましたが、こう云う非常時にこそ、その者の人となりがはっきり表れると云うものでありましょうか。
 是路総士が立つのが目に入ったのか、葬儀社の社員と思しき者と打ちあわせをしていた花司馬筆頭教士が飛んで来るのでありました。
「総士先生、本日はご足労を頂きまして有難うございました」
 花司馬筆頭教士は憔悴したような顔を伏せるのでありました。興堂範士の亡骸の到着後、葬儀やその段取りの差配、それに各方面への連絡等で休む間もないのでありましょう。
「花司馬君も暫くあれこれと大変でしょうが、もう一働きをお願いします。私も何でも致しますし、ウチの者達もおおせがあればすぐにも手伝いに駆けつける用意があります」
 この是路総士の言葉は、取りようによっては葬儀を主導すべき威治教士がちっとも働かない事を、やんわり揶揄しているようにも聞こえるのでありましたが、まあそれは万太郎の読み過ぎでありましょう。是路総士はそんな婉曲な言辞は弄さない人でありますから。
「有難うございます。人手の方は足りると思います」
 勿論、花司馬筆頭教士もこんなところで是路総士に威治教士の怠惰ぶりを云い募るような、そんな弁えのない不謹慎な人ではないのでありました。
「ああそうですか。しかしどうぞ、何の遠慮も要りませんからな」
 二人は再度お辞儀を交わすのでありました。万太郎も是路総士の後ろから花司馬筆頭教士に礼をするのでありましたが、頭を起こした万太郎の顔をチラと見る花司馬筆頭教士の表情は、気の毒になるほど如何にも情けなさそうなのでありました。
 玄関では花司馬筆頭教士を始め、板場教士と内弟子の堂下善郎と、その他数名のこの場に居あわせている弟子や門下生連中が総出で是路総士を見送るのでありました。当然の事ながら、その見送りの輪の中に威治教士の顔はないのでありました。
 葬儀当日は総本部道場から是路総士以下主だった面々が、それから興堂範士と生前親交のあった書道の大岸先生も、それに万太郎と同期内弟子だった良平も一緒に参列するのでありました。是路総士は神檀真正面の親族や主たる会葬者の席に、鳥枝範士と寄敷範士、それに大岸先生はその後ろの故人と近しかった人達の席に、それからあゆみと万太郎、良平と来間はずっと後方の一般参列者の席で祭事の進行を見守るのでありました。
 是路総士の座っている席の周辺には、テレビ等で見知っている大物政治家の顔があるのでありました。それにこれもテレビや映画で見る著名な芸能人やスポーツ選手、その他にも万太郎でも知っている実業家や文化人の顔もちらほらと散見出来るのでありました。
(続)
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