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お前の番だ! 254 [お前の番だ! 9 創作]

「へえ、それは良かった。そうなると総士先生のご復帰も早いかな」
「いやまあ、完全なご復帰には少し時間がかかるかも知れませんが、遠からず総士先生の元気なお姿を道場で見る事が出来ると思いますよ」
「門下生の一人として、それは嬉しい知らせだなあ」
 三方は万太郎に、さも嬉しそうな笑顔を向けるのでありました。
 道場の隅では来間が未だ新木奈と何やら話しているのでありました。万太郎は再度三方と礼を交わして立つと、出入口の方に向かうのでありました。
 その万太郎の様子に気づいた来間が急いで万太郎の方に駆け寄るのでありました。来間は出入口引き戸の傍らに片膝ついて、出ようとする万太郎を見送るのでありました。
「後は頼んだぞ」
 万太郎は出際に来間に云うのでありました。
「押忍。承りました」
 来間は首を前に傾けるのでありました。道場から皆が退出したら道場内の整理をして、門下生達が建物から去るのを確認する仕事が来間には残っているのでありました。
 母屋の食堂に戻るとあゆみがすぐ後から入って来るのでありました。あゆみは自分の部屋で稽古着から普段着に着替えていたのでありましょう。
 この後内弟子だけの剣術稽古があるのでありますが、あゆみが稽古が終わる都度に、面倒臭がる事なく着替えるのは何時も通りでありました。万太郎や来間がその日最後の稽古が終わるまで稽古着を着放しにしているのは、男であるが故の無精からでありますか。
 あゆみはすぐに流し台に向かうのでありました。稽古と稽古の合間に夕食の支度をある程度調えておいて、後は火を入れて完成させるだけの段取りのようであります。
「手伝いますか?」
 万太郎があゆみの背中に声をかけるのでありました。
「ううん、一人で大丈夫よ。お父さんも鳥枝先生もいないからお酒の心配とかしないで済むし。あたしと万ちゃんと注連ちゃんだけなら、夕食の支度も簡単なものね」
 あゆみは来間の事を母屋では注連ちゃんと呼んでいるのでありました。
「では来間の方を見てきます」
 万太郎はそう云ってあゆみの背中に一礼して食堂を出るのでありました。
 道場はもうすっかり人の気配がなくなっているのでありました。来間は受付兼内弟子控え室で日誌をつけているのでありましたが、日誌と云っても稽古参加人数、それに指導者の名前、後は稽古した技、あれば特記事項を記すだけの到って簡単なものであります。
 万太郎が入って来ると、来間は正坐した儘で万太郎の方に向き直ってお辞儀するのでありました。万太郎は立礼を返して来間の傍に座るのでありました。
「さっき新木奈さんと何を話しこんでいたんだ?」
 万太郎は来間のつけている日誌を覗きこみながら訊くのでありました。
「特別な事は何も」
「道場運営の方針が変わった事とか、あれこれ詳しく話していたのか?」
(続)
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