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お前の番だ! 251 [お前の番だ! 9 創作]

「それはそうだけどさ」
 あゆみは困ったような顔で一応頷いて見せるのでありました。
「ところで総本部道場運営の仕事を、これから先僕とあゆみさんが担当すると云う事ですが、僕等の方の役割分担はどうなりますかね?」
 万太郎が話しの舵を曲げるのでありました。
「そうね、具体的にどんな仕事があるのか鳥枝先生や寄敷先生に詳しくお伺いして、それから後で万ちゃんと二人で細部を摺りあわせる事になるわね。それは確かに大まかな様子は判ってはいるけど、未だ曖昧なところや知らない仕事もあるし」
「そう云った経営面なんかに今まで僕は全くノータッチでしたから、ちゃんとあゆみさんの手助けを無難に熟せるのかどうか、非常に心もとないような心持ちです」
 万太郎は気後れの表情をあゆみに向けるのでありました。
「あたしの手助け、とかじゃなくて、万ちゃんも共同で責任を持って貰わないと困るわ。まるで助手みたいな気分でいて貰っては、あたしの方が心細いじゃない」
 あゆみが万太郎をやや強い眼光で睨むのでありました。
「それは勿論、僕も無責任でいようとしているわけではありません。しかしあゆみさんが総本部道場長であり、僕がその代理と云う職分から、そんな風に云ったまで、ですよ」
「本心のところは、あたしとしては万ちゃんが頼りの綱なんだから、お願いよ」
 あゆみは万太郎に合掌して見せるのでありました。その真剣な眼差しが、万太郎にはえも云えず可憐に見えるのでありました。
「押忍。僕は全力で、あゆみさんを支えて見せます」
 万太郎はあゆみの懇願の仕草に、秘かに我を忘れる程の満悦を覚えるのでありました。こうなったら何が何でも、あゆみのために張り切らざるを得ないと云うものであります。

 その日の夜の一般門下生稽古に鳥枝範士ではなくあゆみが現れたのを見て、下座に座る門下生の中で最も喜躍したのは新木奈でありましょうか。あゆみの後について道場に入る時に、新木奈の顔が一瞬光燿したのを万太郎は横目でちらと見るのでありました。
 来間のすぐ横、やや前に万太郎が、見所に向かって道場中央にあゆみが正坐すると、来間の号令に依り神前への礼からその日の一般門下生稽古が始まるのでありました。
「では基本動作を始めてください」
 あゆみが指示すると門下生達は各個に道場一杯に散らばって、夫々自分のペースで基本動作を止めの指示があるまで繰り返すのでありました。専門稽古と違って、一般門下生稽古では整列して号令に依り基本動作や基本の当身動作を反復するのではなく、個々の門下生のペースがある程度は許されているのでありました。
 それは参集した門下生達の経験や体力や年齢が専門稽古生よりはばらつきが大きくて、しかも本格的に常勝流武道を稽古しようと云う意気も専門稽古生よりは薄いであろうと云う判断からでありました。一般門下生達は健康維持とか体力増強とか、娯楽のためとかダイエットのためとかの、夫々固有の稽古目的もある程度は許容されているのでありました。
(続)
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