お前の番だ! 233 [お前の番だ! 8 創作]
良平が長椅子から立ち上がったので、万太郎もあゆみも一緒に立つのでありました。
「良さん、今日はお疲れのところをご苦労様でした」
「良君、来てくれて有難う」
あゆみが良平に些か丁寧なお辞儀するのでありました。
「いや、とんでもありません。今後の道場の事については、鳥枝先生の指示もありますが、何か手助けする事があるだろうし、そうなれば俺も出来る限りの事はしますよ」
「よろしくお願いします」
あゆみはその良平の言に対してより丁寧にもう一度頭を下げるのでありました。
「いやいや、そんな水臭い」
良平は慌てて両手を横にふって、あゆみの一礼にたじろぎの態を示すのでありました。
「じゃあ良さん、奥さんによろしく云ってください」
万太郎もあゆみと同程度に低頭して見せるのでありました。帰りに捨てていくからと、良平は万太郎とあゆみの食べ終えた弁当容器の入ったビニール袋と茶の空き缶を引き取って、途中で一度ふり返って挙手して見せてから廊下を歩み去って行くのでありました。
集中治療室の扉が開くのが見えるのでありました。出てきた看護婦がこちらに趨歩して来るのは、屹度是路総士が眼覚めたのを知らせるためでありましょう。
集中治療室の中は様々な医療機器がベッドを取り囲んでいて、迂闊には近寄り難く、その様を見るだけで万太郎は云い知れぬ緊張感に居竦むのでありました。あゆみが看護婦に促されてベッドに近づくのでありましたが、万太郎は出入口で控えるのでありました。
「お父さん、大丈夫?」
ベッド傍で、やや上体を屈めてあゆみが是路総士に話しかけるのでありました。是路総士からは声の応答は何もないのでありましたが、体全体を覆うようにかけられた白い布が動いて、やや身じろぎするような様子が万太郎にも見えるのでありました。
「意識が戻っても、未だぼんやりされていますから」
横に立っている看護婦があゆみに説明するのでありました。それに数度頷いてからあゆみは万太郎に手招きを送るのでありました。
万太郎が近づくと看護婦が身を避けてくれるのでありました。
「総士先生、如何ですか?」
ベッド傍に行ってようやく万太郎は気づいたのでありますが、是路総士は俯せにベッドに寝かされているのでありました。背には手術直後の傷を守るためケージが据えてあるようで、上にかけてある布がその形なりに盛り上がっているのでありました。
万太郎が遠慮がちに云うと、是路総士は無表情な顔を少し横に曲げて虚ろな目で万太郎を見るのでありました。瞳が茫洋としているように万太郎には見えるのでありました。
「ああ、・・・お前も居たのか」
是路総士のその言葉は呂律が怪しくて、万太郎は僅かに遅れてようやくそう云ったのだと判るのでありました。万太郎は虚ろな瞳に向かって頷いて見せるのでありました。
(続)
「良さん、今日はお疲れのところをご苦労様でした」
「良君、来てくれて有難う」
あゆみが良平に些か丁寧なお辞儀するのでありました。
「いや、とんでもありません。今後の道場の事については、鳥枝先生の指示もありますが、何か手助けする事があるだろうし、そうなれば俺も出来る限りの事はしますよ」
「よろしくお願いします」
あゆみはその良平の言に対してより丁寧にもう一度頭を下げるのでありました。
「いやいや、そんな水臭い」
良平は慌てて両手を横にふって、あゆみの一礼にたじろぎの態を示すのでありました。
「じゃあ良さん、奥さんによろしく云ってください」
万太郎もあゆみと同程度に低頭して見せるのでありました。帰りに捨てていくからと、良平は万太郎とあゆみの食べ終えた弁当容器の入ったビニール袋と茶の空き缶を引き取って、途中で一度ふり返って挙手して見せてから廊下を歩み去って行くのでありました。
集中治療室の扉が開くのが見えるのでありました。出てきた看護婦がこちらに趨歩して来るのは、屹度是路総士が眼覚めたのを知らせるためでありましょう。
集中治療室の中は様々な医療機器がベッドを取り囲んでいて、迂闊には近寄り難く、その様を見るだけで万太郎は云い知れぬ緊張感に居竦むのでありました。あゆみが看護婦に促されてベッドに近づくのでありましたが、万太郎は出入口で控えるのでありました。
「お父さん、大丈夫?」
ベッド傍で、やや上体を屈めてあゆみが是路総士に話しかけるのでありました。是路総士からは声の応答は何もないのでありましたが、体全体を覆うようにかけられた白い布が動いて、やや身じろぎするような様子が万太郎にも見えるのでありました。
「意識が戻っても、未だぼんやりされていますから」
横に立っている看護婦があゆみに説明するのでありました。それに数度頷いてからあゆみは万太郎に手招きを送るのでありました。
万太郎が近づくと看護婦が身を避けてくれるのでありました。
「総士先生、如何ですか?」
ベッド傍に行ってようやく万太郎は気づいたのでありますが、是路総士は俯せにベッドに寝かされているのでありました。背には手術直後の傷を守るためケージが据えてあるようで、上にかけてある布がその形なりに盛り上がっているのでありました。
万太郎が遠慮がちに云うと、是路総士は無表情な顔を少し横に曲げて虚ろな目で万太郎を見るのでありました。瞳が茫洋としているように万太郎には見えるのでありました。
「ああ、・・・お前も居たのか」
是路総士のその言葉は呂律が怪しくて、万太郎は僅かに遅れてようやくそう云ったのだと判るのでありました。万太郎は虚ろな瞳に向かって頷いて見せるのでありました。
(続)
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