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もうじやのたわむれ 278 [もうじやのたわむれ 10 創作]

 閻魔大王官は笑顔で手をひらひらとふって、拙生の恐縮を慰撫するのでありました。
「迂闊な質問をして、申しわけありません」
 拙生は頭を掻くのでありました。
「いやのう、宿泊施設にそう云うサービスが設定されておるのは、ちゃんと意味のある事でじゃなあ。中にはエネルギー消費効率の矢鱈に良い亡者殿もおって、そう云う亡者殿は宵っ張りが出来るもんじゃから、四更までくらいのサービスなんかも必要なのじゃよ」
「私の場合、或る時間になると急に万事が億劫になって、その儘寝てしまいました」
「ま、それが一般的なのじゃがのう」
「亡者の体内に蓄積できる光エネルギーの量は、亡者夫々で違うのでしょうか?」
「そう云う事のようじゃな。それと蓄積したエネルギーの消費効率も、夫々の仮の姿間で違いがあるようじゃ。これはどうしてそんな差が出るのか、今のところ解明出来てはおらんようじゃ。ま、現実に仮の姿にそう云う差があると云う事実のみが把握されておるわい」
「それは娑婆時代の、その個体の持っていた筋肉量とか骨量とか、或いは血液の組成とか、内蔵の強さなんかが関係しているのでしょうかね?」
「いやあ、娑婆時代のその個体の条件は一切関係ないとされておるわい。それに娑婆にいた時間の長さと云うのも、相関してはおらんと云う事じゃ。但し、亡者殿の中には娑婆時代の肉体的能力をその儘保持している例外も二三、報告されてはおるらしいがのう。ま、短い審理期間を終えるまでの仮の姿じゃし、一般的には娑婆の姿形に似せてはあるが、単にそれだけの事で、向うにいた頃の体の特性は引きずる必要は、特にはなかろうと云う事のようじゃな。娑婆時代の姿形にさっぱり似ておらん亡者殿も、相当数おるようじゃしな」
「ああそうなのですか?」
「まあ、向うに居た時間がごく短い亡者殿もおるし、そうなると赤ちゃんとか、場合に依っては胎児の姿で審理に臨むなんと云うのも、色々と按配が悪い事もあるわいの」
「そりゃまあ、そうですね」
 拙生は頷くのでありました。
「ええと、ところで元々は何の質問じゃったかのう?」
 閻魔大王官がふと、思念が少し混乱したと云う様な顔をするのでありました。
「カフェテリア黄泉路が四更まで営業しているのは何故か、と云う質問とかです」
「ああそうじゃったそうじゃった。で、そう云うわけで四更まで営業する意味はちゃんとあるのじゃよ。それに夜を徹しての、飲めや歌えのどんちゃん騒ぎのオプションものう」
「もう少し亡者の仮の姿についての質問ですが、・・・」
 拙生はそう云いながらメモを見るのでありました。「こちらに来て三途の川を渡る準娑婆省の港湾施設に行く途中の道筋で、何となくフワッと仮の姿になっている自分に不意に気づいて、その時は仮の姿であるとは思わないのですが、まあ兎に角、どうしてか娑婆時代の体裁の儘で、これもどうしてか判らないながら、これから向かうべき場所なんかもちゃんと知っていて、そいで以って豪華客船で三途の川を渡って、その後閻魔庁に着いたら審問官と記録官の審問を受けて、その後で閻魔大王官さんの一回目の審理を受けたわけです」
(続)
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